かつてソ連が存在したころ、西側のクレムリノロジスト(ソ連問題分析専門家)たちは革命記念日にレーニン廟に並ぶ指導者の序列の変化を手がかりに、情報封鎖された共産党内部の権力闘争を読み解こうとしていた。党機関紙プラウダの微妙な表現の変化も貴重な情報源だった。

 情報を把握している者がごく少数に限られ、かつ互いに「漏れ」を強く監視し合っている場合、その情報が外部に流出することはまれだ。クレムリノロジストたちの「技術」は今思えばずいぶんアナクロだが、現在もこの伝統芸が有効な国がいくつかある。その1つが中国だ。

 今年1月29日に北京で開かれた全国国境警備会議を伝える記事で、現在2人いる中央軍事委員会副主席の郭伯雄(クオ・ポーション)と徐才厚(シュイ・ツァイホウ)の表記の序列が逆転していると、在米中国語ニュースサイトの博訊ネットが報じた新華社の記事を見ると、確かに徐の名前が先に書かれている。

 中央軍事委員会は、中国政治の権力の源泉の1つとされている人民解放軍を指導する組織。郭、徐とも制服組で、郭は徐の1年先輩。軍事委副主席になったのも郭が先だった。共産党指導者の序列には厳格な定めがあり、もしメディアが間違って報じたのであれば直ちに訂正される。それが訂正もされずに放置されているということは、序列を変える何らかの指示もしくは政治的動きがあった、と推測するのが妥当だ。

■「習近平時代」到来が確実に

 なぜこのポストの動きに注目する必要があるのか。昨年9月、軍事委主席でもある胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席の最有力後継者である習近平(シー・チンピン)・国家副主席が、共産党の会議でその登竜門とされる軍事委副主席になぜか選ばれなかった。「規定路線」を外れたことで、世界のチャイナウォッチャーの間に中南海で権力闘争が始まったのではないか、との憶測が一時広がった。

 博訊ネットの記事で匿名識者がコメントしている通り、「(軍の制服組トップである)郭伯雄からの権力委譲はすでに始まっている。3月から10月の間に軍事委副主席のポストは習近平か、ほかの誰かに引き継がれる」ことになれば、権力闘争はなく、中国の次期トップは習でほぼ決まり、ということになる。

 香港誌が昨年12月、習が昨年9月の会議の前に、胡に軍事委副主席就任をしばらく遠慮したいという「手紙」を出していた、と報じた。「ほかの誰かに引き継がれる」というのは、おそらく「手紙」の存在を含んだコメントではないか、と推測できる。習が辞退するのは「しばらく」だから、ワンポイント・リリーフを経て、遠くない未来に習自身が軍事委副主席に就任するという流れである。

 いずれにせよ、次期共産党大会がある2012年に中国が「習近平時代」を迎えるのは間違いなさそうだ。昨年末の天皇会見で日本人にあまりよくない印象を残した習だが、その実像は中国でもあまり知られていない。オバマ大統領のようにツイッターで情報を発信してくれるといいのだが。

――編集部・長岡義博

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