平時であれば、大統領が選挙での勝利を利用して次の選挙を自分に有利に傾けようとする皮肉を楽しめるかもしれない。しかし、今は平時ではない。ゲリマンダーが失敗し、民主党が支配する都市で軍隊がデモを阻止できなければ、トランプはさらに力に頼るだろう。

ジョージ・W・ブッシュ政権の元高官ポール・ローゼンツバイクが警告するように、選挙の「公正性」をめぐるトランプの25年3月の大統領令は、明らかに「対立候補の権利を奪い、選挙での敗北を未然に防ぐ」のが狙いだ。

法の支配の崩壊による民主主義への脅威が26年と28年の選挙だけなら、まだましだろう。自由で公正な選挙に対する脅威は、より大きな問題の一部にすぎない。

無制限の「負託」という概念から導かれる結果を思えば、問題は数回の八百長選挙だけにとどまらない。法の支配が及ばない最高権力者はアメリカの精神の全面否定であり、協議と民主的選択によって動く政治共同体が時を超えて存在するという概念の拒絶だ。

大統領が気まぐれで法律を無視できるなら、議会が法律を作る理由はない。今日採択された法律は未来の指導者に拘束力を持たない。

無制限の「負託」とやらを支持する人々は、過去の道徳的な力を否定することにより、従来の民主政治のやり方から逸脱している。多数決制は民主主義の存在理由であり存在証明だが、今後はそうでなくなる恐れがある。

アメリカが象徴してきたあらゆるものを全面否定する──そんな第2次トランプ政権のビジョンが26年、完全に実現するかもしれない。

©Project Syndicate

アジズ・ハクアジズ・ハク

AZIZ HUQ

米シカゴ大学教授(アメリカ憲法、比較憲法)。著書に『憲法上の救済の崩壊』(未邦訳)など。『「法の支配」入門』の邦訳が26年に出版予定。

【関連記事】
トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライナに「降伏」――それでも「和平」と呼べるのか?
2025米国経済、成長と雇用の「ねじれ現象」──人を雇うよりひたすら技術に投資する新たな法則

ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます