ようやく家に到着すると、母が駆け寄って来て泣きながら私を強く抱きしめた。父が無事に帰ってくるまで、母は取り乱していた。父が家に着き、「あいつは帰っているか」と叫んだ。「ええ!」。母は、ほっとして神に感謝した。
後で知ったことだが、父は私を心配していたものの、先に帰ったと信じて家に向かったという。手にはナツメヤシの袋を握りしめていた。途中、トラックに轢かれそうになったが、どうにかよけて生還した。
私は、小麦粉の袋もろとも戦車に轢き殺された若者を永遠に忘れない。彼は民族浄化に抗い、生き延びようとするガザの人々の勇気の象徴として、私の心で永遠に生き続ける。
◇ ◇ ◇

アフメド・ダデル
Ahmed Dader
今もガザにいて既に9回以上も避難を強いられた。あるとき家が爆撃され、妊娠8か月だった妻とともに瓦礫の下に3日間閉じ込められ、お腹の子は死んだ。アリヤ(「高貴な者」の意)と名付ける予定だった。
◇ ◇ ◇

『〈ガザ〉を生きる パレスチナの若者たち10年の手記』
【編】アフメド・アルナウク、パム・ベイリー
【訳】沢田博&チーム・アルミナ
四六判上製/332ページ/2400円+税
原書房より2025年12月8日刊行
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