<危機に瀕していたオオカミが復活した途端、農家票目当てに保護策の緩和へ走るが......>

いまヨーロッパでオオカミを怖がっているのは誰だろう? 大半は農民だが、それ以外の人が少なくとも1人いる。ヨーロッパで最も大きな権力を持つ女性ともいえるウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長だ。彼女はオオカミの脅威について警告を発し続けている。

長年にわたる保護の努力のおかげで、オオカミは復活を遂げた。ヨーロッパでのオオカミの生息数は、1992年にEUが制定した「ハビタット指令」の効果もあって、2万匹近くにまで急増している。ベルギーでは先頃、実に100年ぶりにオオカミが戻ってきた。

【動画】ベルギーにオオカミ...1世紀以上ぶりに目撃

ところが、今まで生息していなかった場所にオオカミが姿を見せ、家畜などに危害を加えるケースが増えている。これを受けて、スカンディナビアのフィンランド、スウェーデン、ノルウェーでは、一定数のオオカミを駆除する許可をハンターに与えた。フランス政府も9月下旬、オオカミを保護する規制をやや緩和する「国家オオカミ計画」を発表した。

欧州委員会は9月、保守政党の支持基盤である農民や牧畜業者などの圧力を受けて、オオカミの個体数を削減する施策を開始した。「ヨーロッパのいくつかの地域にオオカミの群れが集中しており、家畜にとって、あるいは人間にとっても危険な状況だ」と、フォンデアライエンは9月上旬に語っている。「地方当局や各国政府に、必要な措置を講じるよう求めたい」

オオカミの増加に対するEUの最近の動きは、2021年10月にオオカミがヨーロッパの生物多様性の「不可欠な一部」だと宣言したときとは、大きくトーンが変わっている。

フォンデアライエンはかつてドイツの国防相を務め、保守派のキリスト教民主同盟に所属する。彼女は昨年9月、ハノーファー近郊で飼っていた子馬のドリーをオオカミの襲撃で失った。このオオカミは他の動物も襲っており、駆除するよう行政命令が下った。

有権者の目をそらす目的?

それでも、政治家たちの怒りは収まらなかった。昨年11月、欧州議会はオオカミの保護策を弱める動議を可決。この動議は、議会内最大の保守政党グループで、フォンデアライエンも所属する欧州人民党(EPP)が主導した(拘束力はない)。

もちろん、誰もがオオカミを敵視しているわけではない。ドイツの自然保護NGO「ユーロナチュール」の上級政策担当ブルーナ・カンポスは、オオカミを脅威とみるのは誤りだと言う。

「ヨーロッパのオオカミは人間にとって何の脅威にもならない」と、彼女は語る。「家畜を襲うことはあるが、オオカミに襲われる危険性を減らす方法は既にいくつも知られている」。例えば防護柵の強化や、光や音でオオカミを寄せ付けないといった対策だ。

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