警官たちが仮眠を取るのは防空壕を兼ねた地下室だった。眠りに入ろうとした頃、水滴の音がした。降り出した雨がストーブの煙突を伝って落ちてきたのだ。頬に水を浴びながら、何とかやり過ごす前線の夜。同じ頃、検問所の警官たちは、氷点下近くにまで冷え込んだ暗闇で警戒に当たっていた。ロシア兵が居座る占領地とは地続きだ。3月にはグレイポーレにまで進軍してきて、ウクライナ兵と交戦状態になったこともある。ウクライナの防衛を担う面々にとって、一瞬たりとも気を抜くことが許されない日々が続いている。

11月21日、WHO(世界保健機関)欧州地域事務局長のハンス・クルーゲは首都キーウ(キエフ)で会見し、「今年の冬、ウクライナで数百万人が命を脅かされることになる」と警告した。「簡単に言うと、生き残りを懸けた冬だ」。ウクライナ全土で初雪が観測されたタイミングでの発言だった。暖房や調理に欠かせないガスの供給が止まった施設は住宅や学校、病院など全国で何十万にも上るという。

23日にはブリャンスクの病院が砲撃を受け、生後2日の赤ちゃんが犠牲になった。2月以降、ロシア軍によるウクライナの医療関連施設への攻撃は700件以上に達している。

一体どれだけの悲劇が報じられれば平和が訪れるのか。庭に掘った穴の中で生き延びてきた一家が、見回りに来たグレイポーレの警官たちに語った言葉が忘れられない。

「誰が何を盗むんだ? もう盗むものなんて何もない。人が生きて、死んで、それでおしまいさ」

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