ポールニマさんが指摘する「嘘」とは、今回の最終報告に記載された、今年2月15日に行なわれたウィシュマさんの尿検査のこと。検査結果は、ウィシュマさんが飢餓状態・脱水症状にあることを示していたのだ。この尿検査については、今年4月に法務省及び入管庁が発表した中間報告でその事実があったことすら一切触れられず、「内科的な異常はない」との記述ばかりが強調されていたのだ。

ワヨミさんとポールニマさんら遺族を支援する指宿昭一弁護士は「中間報告の時点で尿検査について把握していなかったはずがない」と指摘。「意図的に隠していたものだと思います。ワヨミさんも尿検査について、すぐに『これは中間報告に書かれていませんでしたよね?』と気が付きました」(同)。

shiba20210812173801.jpgウィシュマさんが飢餓・脱水状態にあることは、名古屋入管職員達も把握していた(ウィシュマさん事件の法務省/入管の最終報告より)

病状を知りながら詐病扱い、追及甘く

最終報告によれば、今年2月15日に尿検査を行った看護師から、ウィシュマさんが飢餓・脱水状態にあることが、名古屋入管の看守らに共有されていたにもかかわらず、名古屋入管が、今年3月4日の外部病院でウィシュマさんに診察を受けさせたのは、内科ではなく精神科で、しかも診察した医師には予め、「支援団体*から"病気になれば仮放免される"と言われた頃から健康状態悪化を訴えるようになった」*と、まるでウィシュマさんの症状が詐病であるかのように伝えていたのだ。 

*支援団体は否定。

2月15日の尿検査の結果で、ウィシュマさんが内科的に問題を抱えていることが判明したにもかかわらず、その後も名古屋入管側がウィシュマさんを詐病扱いしていたことについて、中間報告にはそもそも記載がなく、今回の最終報告でも尿検査の結果を受け追加の内科的検査を行うべきだったとしながらも、「医療体制の制約があった」と名古屋入管を擁護し、その悪質さへの徹底的な追及を行っていない。

何人死ねば改善するのか

shiba20210812173802.jpg
上川法相 10日の会見で (筆者撮影)

最終報告の発表に際し、昨日10日の記者会見で上川法相は入管施設での医療環境の改善や職員の意識改革などの改善策を行うと述べた。だが、入管施設の医療環境の劣悪さは、法務省が入管施設内での死亡事案の集計を始めた2007年当初から指摘され続けてきたことだ。

上川法相の下でも安倍政権での在任時を含め、ウィシュマさん他4人の外国人が入管施設内で死亡しており、特に2014年の東京入管でのスリランカ人男性が胸の痛みを訴えたが医師の診察を受けられずに死亡したことに対し、日本弁護士会が「適切な医療体制の構築」などの再発防止策を勧告していた。10日の会見で「同様の事案を二度と繰り返さないとの決意のもと、改革を実行し責任を果たしてまいります」と述べた上川法相であるが、そもそもその大臣としての資質自体が問われるべきだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]

志葉玲

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら

【関連記事】
ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます