<「仇敵」だったはずの国々で構成される東地中海ガスフォーラムは、中東における欧州石炭鉄鋼共同体になれるか>

中東の各地で、同盟関係に予想外のシフトが起きている。新たに出現中の構図は、この地域にどんな意味を持つのか。

変化の主な引き金はイランの影響力拡大だ。湾岸諸国はアメリカの消極姿勢を懸念し、イランに接近。同時に、イスラエルとの安全保障関係の深化に舵を切っている。

だが、要因はイランだけではない。地中海東部に位置するイスラエルやキプロス、エジプトの沖合ではこの約10年間、新たな天然ガス田の発見が続き、それがかつての敵同士を接近させている。

今や、東地中海では資源で結ばれたコミュニティーが誕生しつつある。2019年初頭にエジプトの首都カイロで設立の議論が始まった東地中海ガス・フォーラム(EMGF)は昨年末、キプロス、エジプト、ギリシャ、イスラエル、イタリア、フランス、ヨルダン、パレスチナ自治政府と、極めて異質のメンバーが構成する正式な政府間組織になった。

これを出発点に、東地中海で政治・経済的同盟が生まれると考えるのは飛躍し過ぎだろうか。だがエネルギー・安全保障上の同盟が、地域的な戦略的枠組みを生み出した例はある。EUの前身であるEEC(欧州経済共同体)の母体は、1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体だった。

新たな動きの中で目立つトルコの不在

イスラエルの場合、東地中海でのパートナー関係の深化路線には、それなりの理由もある。既にギリシャがイスラエルの天然ガスや防衛テクノロジー、軍事情報と引き換えに、イスラエル空軍に訓練目的での領空利用を許可している。中東の陸地で手にすることのなかった規模の戦略的縦深性(戦略的に利用可能な領土の広がり)を、イスラエルは東地中海で達成できるかもしれない。

こうした動きのなかで目立つのが、トルコの不在だ。海洋領有権問題で対立してきたギリシャとトルコは今、係争領域にあるガス田という火種を抱えている。

ギリシャは昨年1月にキプロス、イスラエルと、欧州に天然ガスを送る東地中海パイプラインの建設で合意した(これはEUが対ロシア依存を減らすことにつながる)。長年、東地中海と欧州を結ぶエネルギー回廊の中枢に自国を位置付けようとしてきたトルコにとっては非常に悪い知らせだ。

トルコのEU加盟は、現時点では行き止まり状態だ。中東での戦略的役割を拡大する取り組みもうまくいっていない。19年にリビアの暫定政府と両国間の排他的経済水域(EEZ)の境界を定める協定を結んだのは、東地中海でのトルコ抜きのガス田開発を阻止することが目的の1つだった。

アメリカは今後も中東の安定に不可欠
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