Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 5日 ロイター] - 臨時国会が5日に召集され、高市早苗首相が所信表明演説に臨んだ。財政政策を訴える場面が目立つ中、政府与党内で注目を集めたのが「機動的な対応」という言葉だ。複数の関係者によると、高市氏は「リフレ論者」というイメージを払拭したい一方、自身が必要と考える財政出動はためらわない姿勢も崩していない。双方のバランスを考えた末にたどり着いた表現だという。

<「経済財政運営上、当然のこと」>

「経済や市場が想定と異なる動きを示した場合には、その影響を十分に分析し、必要な対応を機動的に講じる」。高市氏は演説の序盤、自らが掲げる「責任ある積極財政」に関連してこう述べた。債務残高の対国内総生産(GDP)比を安定的に引き下げるという目標も改めて強調。「経済、物価、税収、金利、利払い費、市場の状況」などを総合的に検証し、通年の国債発行額を「適切にコントロールしていく」とも語った。

高市氏が考える「機動的な対応」とは何か。首相官邸幹部は「市場の動向や外部環境の変化を見ながら対応するということだ」と説明する。「基本的な方向性を示しつつ、起こり得る状況に機動的に対応するのは、経済財政運営上、当然のこと」とも話したが、具体的にどのような手法を想定しているかは明言を避けた。

国債をめぐっては、高市氏が8月の読売新聞のインタビューで、来年度一般会計の新規国債発行額を40兆円程度に抑えるとも取れる発言をして以降、政府内でも同規模を想定する見方が広がっている。ただ、高市氏は今回の演説で具体的な金額に触れなかった。前出の官邸幹部は「通年の国債発行額を適切に管理する。予算編成改革の大きな枠組みのなかでやっていく」と説明したが、規模については「現時点では踏み込んでいない」と述べるにとどめた。

<「マーケットが跳ねるのを警戒している」>

政府は夏以降、「高市氏はリフレ論者ではない」(片山さつき財務相)と繰り返し発信している。高市氏は2月の施政方針演説で「長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る」と宣言し、あわせて「財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していく」と述べていた。当時は強気な姿勢が目立ったが、今回の演説は全体として穏当な表現にとどまった。

複数の政府関係者への取材から、演説に込めた高市氏の考えが浮かび上がる。官邸に出入りする関係者の一人は、高市氏が市場の動きを強く意識していると明かし、「これから進める政策によってマーケットが跳ねるのを警戒している」と話す。その一方で、高市氏は支持層が期待する「積極財政」の路線にもこだわっているという。同関係者は、各方面に配慮した結果、「機動的な対応」や「国債発行額の適切なコントロール」といった、どちらにも解釈できる表現に落ち着いたとの見方を示した。

また、財政政策に携わる別の関係者は、「機動的な対応」はあくまで「経済や市場」が想定と異なる動きを見せた場合のものだと強調。長期金利や為替の動きへの対応に加え、「経済状況が悪化した際には必要に応じて財政を吹かすとの考えが込められている」とも解説した。

<「見ているところがまったく違う」>

ただ、政府内には「市場の信認は具体的な数字を示して初めて得られるものだ」(経済官庁幹部)との声が根強い。年末にかけては防衛費増額の議論や来年度当初予算案の編成が控える。高市氏がどう市場の信認を得ていくのか、与党内や専門家の間では期待と疑問が入り交じっている。

野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、高市氏が口にした「機動的な対応」に注目し、「機動的という言葉を使うのは政権として初めてだ。市場の信認を得るため、いままでにない言葉を使っている」と分析。「高市政権が今後、マーケットにどれだけ配慮した政策を取るのか期待したい」と語った。

食料品の消費税減税など、政権の財政政策に懐疑的な見方を示してきた自民党の政務三役経験者は、自国の金利上昇を懸念する米政府との関係もあり、高市氏が夏以降「明らかに市場に配慮し始めている」と指摘する。今回の演説からもその「配慮」がうかがえると評価した。

一方、SBI証券の道家映二チーフ債券ストラテジストは、「金融市場は具体的な政策の中身を見るので、言葉だけを信じることはない」と話す。財源をめぐる議論が先送りされ続けている点に触れ、「国債発行額でうわべの数字合わせのようなことをしても市場は信じない」と強調した。現時点では、政権の財政政策にほとんど変化はないとの見方を示した。「市場関係者は高市政権を誤解しているのではない。見ているところが政権とはまったく違うということだ」

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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