Ankur Banerjee Kevin Buckland Saqib Iqbal Ahmed
[シンガポール 25日 ロイター] - 日本の投資マネーが国内へ回帰する動きは、既に始まっている。ただ海外に投じられてきた巨額の資金が本格的に国内へ還流するには、なお時間がかかりそうだ。日本国債の利回りがどこまで上昇するのか、そして日銀があとどの程度利上げを進める必要があるのかが、はっきり見通せないためだ。
日銀は18日まで行われた金融政策決定会合で利上げに踏み切ったほか、インフレへの対応姿勢を改めて示し、報道によれば外国為替市場で「レートチェック」も実施した。こうした対応により、円を標的とする新たな投機売りをひとまず抑え込むには十分な措置を講じたとみられる。
しかし大手機関投資家は依然として国内債券への本格的な資金投入に慎重だ。国債利回りがなお上昇を続ける一方、政策当局からは金利をこの先どこまで引き上げる必要があるのか、ほとんど手掛かりが示されていないためだ。先週の日銀会合でハト派的な立場から2人が反対票を投じたことに加え、今週に入って債券相場が一段と下落したことも、先行き不透明感を強めた。
このような不確実性への警戒姿勢が、海外資産から国内への資金還流を遅らせている。世界有数の規模を誇る日本の海外投資資金の大部分は、今のところ海外にとどまったままで、それは円相場の持続的な上昇余地を抑える要因にもなっており、世界の金融市場にも広範な影響を及ぼしてもおかしくない。
ドイツ銀行(東京)の債券ストラテジスト大森翔央輝氏は、短期的な投機資金によるキャリートレードは既に巻き戻されたが、長期資金の巻き戻しはまだ始まっていないと指摘。現在残っているのは構造的な資金で、日本の年金基金や、為替ヘッジをせず海外資産を保有している家計だという。
円相場にとって、これは長年続いてきた一方的な下落局面が終わった可能性を意味する一方、持続的な円高基調が始まったと判断するにはまだ早いということを意味する。
確かに円の投機筋のポジションは大幅な売り越しから買い越しへと転じ、9月最初の2週間だけで97億ドルの買い越しとなった。これは2025年7月以来最大の買い越し規模だ。それでも円は9月初旬につけた大幅な上昇分の大半を既に失い、25日には1ドル=159円近辺で取引され、ロイターが今月初めにアナリストを対象として実施した調査で示された、6カ月先の予想中央値である1ドル=157円と比べてなお円安水準にある。
円が直面するもう1つの問題として、アナリストは各国の金融政策を挙げている。中東での戦争によるインフレ圧力に対応するため、主要中央銀行のほぼ全てが利上げに動き始めている。このため日本との金利差が近く縮小する可能性は低いとみられている。
<「落ちてくるナイフ」はつかまない>
本格的な資金還流になお時間を要しそうな一方、日本の投資家が新規資金を国内にとどめやすくしているのが債券投資の採算性改善だ。指標となる10年国債利回り は、2年足らずで約2%ポイント上昇し、3%を超えて約30年ぶりの高水準に達したことで、日本の投資家にとって海外債券の魅力は低下している。
ドイツ銀行の大森氏によると、為替ヘッジをかけて米国債に投資した場合、日本の投資家が得られる利回りは、既に国内債券を下回る。
バークレイズが日本証券業協会のデータを分析したところでは、投資家は先月、日本国債を4兆8000億円買い越した。買越額としては3カ月ぶりの高水準で、銀行や保険会社などが買い手となった。
対照的にHSBCの推計に基づくと、日本の銀行は今年、外国債券を約700億ドル売却した。昨年は350億ドルの買い越しだったため、その方向性は大きく反転したことになる。この動きは欧州からオーストラリアに至る各国の市場にも波及している。
もっとも総額438兆6000億円(2兆7800億ドル)の資産を抱える生命保険会社は、資産配分をゆっくりとしか変更しない。生命保険協会が公表している大まかなポートフォリオ統計からは、今後どの程度の規模で資金配分が変化するのか、まだ明確には読み取れない。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントで為替部門のシニア・ポートフォリオ・マネジャーを務めるアーロン・ハード氏は「日本の資金が国内に還流するという意味では、まだ初期段階だ。資金還流の動きが本格化するのは2027年になる可能性がある。投資家にとって非常に重要なのは、日本の国債利回りがピークを打ったという感触を得ることだ。落ちてくるナイフをつかみたい人はいない」と説明した。
ただこの投資判断を巡る状況が急速に変化する事態もあり得る。片山さつき財務相は、1兆8000億ドルの資産を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に対し、国内市場への資産配分を増やすよう促しており、アナリストの間では、GPIFが実際に国内資産へ軸足を移せば、ほかの機関投資家も追随するきっかけになり得るとの見方が出ている。
パイオニア・インベストメンツのマーケット戦略担当ディレクター、パレーシュ・ウパディヤヤ氏は「GPIFが正式に方針を打ち出す、あるいは実際のデータで国内の日本国債への配分が増えたことが確認されれば、まだ国内資産への配分を変更していない他の機関投資家も、対応を迫られることになるだろう」と述べた。
とはいえ米連邦準備理事会(FRB)による追加金融引き締めへの観測を背景に米国債利回りも上昇している。日銀の利上げだけでは日米金利差の面から持続的な円高を促すのも容易ではないとみられる。
野村証券チーフ・マクロ・ストラテジストの松沢中氏は、状況が安定するまでは、日銀がさらにタカ派的な方向へ動くにも、為替市場でドル・円のポジションを巻き戻すにも、適切なタイミングとは言えない、と分析する。
さらに、生命保険会社のような投資家が、日銀による金利正常化の終わりを見通して海外に投じていた資金を国内へ戻し始めれば、円は1ドル=150円を超える円高水準まで上昇する可能性があると指摘。ただ、今はまだその時ではない、と付け加えた。