Samia Nakhoul
[アンカラ 13日 ロイター] - イエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海沿岸で実効支配を拡大しつつある状況は、中東地域の勢力均衡を塗り替えつつある。これによりイランの影響力が強化される一方で、サウジアラビアとその近隣諸国は、イランとの対立継続で増大するコストを受け入れるのか、それともイランとの関係改善を模索するのかという難しい選択を迫られている。
イランと連携するフーシ派は、世界でも最も重要な海上輸送路の1つであるバベルマンデブ海峡を見渡せる位置を確保したことで、新たな圧力拠点を手に入れた。つまり、ホルムズ海峡における危険を回避するためにサウジが設定した石油輸出の迂回ルートまでも脅かせるようになった。
地域当局者やアナリストによると、フーシ派が紅海の海運を脅かし、同時にイランがホルムズ海峡を封鎖すれば、原油価格を押し上げてインフレを加速させることができる。そうなると問題が長期化し、地域諸国としては危機解決のために米国だけを頼りにはできなくなる。結果として、ペルシャ湾岸諸国に突き付けられるのは、石油輸出の圧迫やイランによる攻撃によって増大する経済的損失を受け入れるか、あるいは貿易やエネルギー輸送、経済の安定を守るためにイランと対話するかという二択だ。
中東アナリストのファワズ・ゲルゲス氏は「フーシ派によるバベルマンデブ海峡近くの戦略的島々の掌握は、ゲームチェンジャーだ。これは勢力均衡を一変させ、フーシ派にサウジや湾岸諸国、米国、さらには世界貿易に対する地政学的・地経学的な影響力を大幅に与えることになる」と分析する。
<湾岸諸国のジレンマ>
サウジはホルムズ海峡が事実上閉鎖状態となって以来、原油輸出の多くを紅海沿岸の港経由に切り替えていた。しかし11日にその原油を運ぶための国土を東西に貫くパイプラインが攻撃を受けたため、このパイプラインの稼働を停止した。
またロイターが報じたところによると、サウジによるフーシ派への攻撃要請に対し、トランプ米大統領が同意しなかったとされることに加え、経済的負担が増大していることから、一部の湾岸諸国の首都では「イランとの(直接)交渉はもはや選択肢ではなく、自国を守るための必要条件だ」との見方が強まっているという。
こうした中で湾岸アラブ諸国外相とイランのアラグチ外相が、ホルムズ海峡に関する取り決めの可能性について協議するため14日にオマーンで会合を開く予定だったが、協議条件を巡る意見の相違により延期された。湾岸諸国の関係筋がロイターに明らかにした。
この会合は、ホルムズ海峡を通過する船舶運航を管理するための暫定的枠組み作りを目指す、オマーンとイランの働きかけの一環だった。オマーンのバドル外相は、地域会合が「合意形成を優先するため延期した」とXに投稿した。「われわれは地域の安定と持続的な協力を支える対話の推進に引き続き取り組んでいく」と述べたが、延期の理由については詳しく説明しなかった。
イランのペゼシュキアン大統領は13日、BRICS首脳会議に合わせてインドのニューデリーで、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の皇太子と有意義な会談を行ったと発言。「過去を脇に置き、共に未来を見据えること、そしてどのように未来を築いていくかについて意見が一致した」と語った。
湾岸諸国にとってのジレンマは、地理的条件を変えることはできないという点にある。何十年もの対立にもかかわらず、イランが地域のエネルギー輸送路と貿易ルートの要衝に位置しているという単純な現実は一貫しており、湾岸諸国の指導者たちがイスラム共和国をどう評価しようと、イランは湾岸地域の安全保障を考える上で避けて通れない存在だ。そして米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけに生じた今回の紛争は、米国と湾岸諸国がイラン封じ込めのために積み重ねてきた長年の外交努力を揺るがしている。
トランプ米大統領は13日、湾岸諸国がイランとの会合を行うことを懸念しているかと問われると「それは彼ら自身が決めることだ」と答えた。
<イランの段階的戦略>
米シンクタンク、中東研究所のアレックス・バタンカ氏は、湾岸諸国にとって重要なのは「イランを信頼できるかどうか」ではなく「米国が短期間で終わらせられない紛争の中で、自国の利益をいかに守り、生き残るか」になりつつあると指摘する。
こうした状況は、湾岸諸国を米国との関係を続けながらイランとも話し合う「並行外交」へと向かわせ、やがては米国だけに依存しない、より広範な安全保障戦略の構築につながる可能性があるという。
バタンカ氏は「湾岸諸国は、自分たちでイランと取引しなければならないという現実を考え始めている。たとえそれが米国の感情を害するとしてもだ。なぜなら、米国にはこの泥沼から彼らを救い出す力がないからだ」と説明した。
今回の緊張激化は、米国とイランの対立よりもはるか以前から続く争いを再び浮き彫りにしている。フーシ派はサウジと複数回にわたり戦闘を繰り広げた後、2014年に首都サヌアを制圧。これを受け翌15年にサウジ主導の軍事介入が始まった。
しかし、長年にわたる空爆や国境地帯での戦闘にもかかわらずフーシ派は生き残って軍事能力を拡大し、イランにとって最も有力な地域同盟勢力の1つへと成長した。
それによってフーシ派は、サウジとの長年の対立を追求し続ける一方で、イエメンを越えて影響力を行使できる地理的優位を活用し、イランにとっての戦略的価値を高めている。
米国務省などで中東外交に携わったアーロン・デービッド・ミラー氏は「フーシ派は従来型の代理勢力ではない。彼らは地理を武器化できる。そして国際経済、さらには世界の石油市場に劇的な影響を与えることができる」と明言した。
ある地域当局者は今回のフーシ派の前進について、イランが慎重に進めてきた戦略の最新段階に過ぎないと分析。「イランにとって、これはチェスの試合だ。次の一手を常に考えている。焦って全てのカードを一度に切るようなことはしない。フーシ派はイランと連携する勢力の中で、今なお強力な実戦能力を備えた唯一の同盟勢力だ」と付け加えた。
米国による経済制裁強化はイランに一定の打撃を与えている。だが湾岸地域関係者の1人によれば、その意図せぬ結果として、米国の湾岸同盟国に対しても圧力が及び、イランとの対立路線を維持し続けることが現実的かどうかに関して再考を促しているという。