Kentaro Sugiyama
[東京 11日 ロイター] - 集中豪雨や地震など自然災害が相次ぐ中、被災後の社会インフラや住宅をいかに迅速に復旧できるかが課題になっている。初動対応や広域支援の体制は過去の災害を通じて改善してきた一方、復旧の現場を担う建設業では人手不足が進む。高市早苗政権は17の戦略投資分野のひとつに防災・国土強靱化を挙げており、官民で人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)などの活用に期待が高まっている。
「次に何が問題になるか、ある程度予測できるようになってきた」。官邸幹部の一人はこう語る。過去の大規模災害で得た教訓や知見が蓄積され、初動対応や復旧プロセスは改善されてきたという。
別の首相周辺の関係者も、被災後の対応に先手を打って対応できるようになってきたと話す。7月末に発生した熊本地震では、水道や高速道路の復旧、仮設住宅の設営などの「スピード感が早まった」と指摘。自治体や業界団体、民間事業者を含めた広域的な人的動員力が復旧を支えているとの見方を示す。
こうした広域支援を平時から準備・調整し、災害時の司令塔となる防災庁が26年中に発足する。地域防災の強化では、都道府県との連絡調整を担う職員を配置し、自治体OBや自衛官・消防関係者のOBなども含めた人材確保を進めている。
<復旧支える人的基盤が縮小>
大規模災害の経済的な影響は、復旧・再建がどの程度の早さで進むかにもよる。経済活動が停滞する期間、元通りに再建する範囲によっては、災害によるマイナスが復旧需要による押し上げを上回る可能性もある。
伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは、復旧の早さは、被災地域の社会的・経済的な重要性に左右されると指摘する。重要な社会インフラやサプライチェーンの要となる生産拠点などは、早期復旧の必要性が高く、人員や資機材も優先的に投入されやすいという。
さらに、建設業の供給力に制約があれば、復旧の優先順位はより明確になり、優先度が相対的に低い地域や案件では工事が遅れるおそれがある。
厚生労働省が3月にまとめた建設労働情勢に関する資料によると、建設業許可業者数は24年度末で48.4万業者となり、ピーク時の1999年度末から約2割減少。建設業の就業者数も24年は約477万人と、ピーク時の97年と比較して約3割減った。
高齢化も進んでいる。建設業就業者の年齢階層別構成比をみると、55歳以上の割合は36.7%と高く、15─29歳は11.7%にとどまる。
帝国データバンクによると、2025年に発生した建設業の倒産は前年比6.9%増の2021件。4年連続で増加し、過去10年で最多となった。人手不足に伴う人件費の急騰や工期の延長、建材価格の上昇など積み重なるコストアップ要因に、価格転嫁が追い付いていないという。
人手不足が常態化している中、自然災害が全国で同時多発的に発生すれば、人海戦術に頼るモデルは限界を迎え、復旧の遅れにつながる可能性がある。
<防災政策と産業政策の接点>
官民で期待が高まっているのが、AIやICTなどの活用だ。
災害時には、被害状況の把握や復旧の優先順位付け、必要な人員・資機材の配置など、大量の情報を短時間で処理する必要がある。国土交通省や自治体では、衛星データやドローン画像を活用して被災状況を把握する取り組みが進む。
民間シンクタンクは、有事における被害状況の可視化だけでなく、最適施策の提示、デマ・誤情報の分析、災害教訓の構造化など「膨大な情報処理を伴う高度な判断支援が可能となる」(野村総合研究所の浅野憲周チーフエキスパート)とみている。
ICT分野でも、建設機械の遠隔操作や自動施工、3次元測量などの導入が進む。ただ、自動施工はダム工事などの大規模案件で先行している一方、一般土木工事への普及はなお限定的との指摘もある。建設業の人手不足が深刻化する中、生産性向上は災害復旧を支える施工能力の維持にもつながる可能性がある。
前出の首相周辺の関係者は、AIやICT活用に加え、平時の公共事業にも重要な意味があると強調する。公共工事は単なる景気対策ではなく、災害時に動員できる施工能力や技術者を地域に維持する役割を果たしているという見方だ。
自然災害が多発する中、復旧を担う建設業の人的基盤は縮小している。被害を防ぐ事前防災に加え、被災後に道路、水道、住宅などをどれだけ速やかに立て直せるかが問われる。人口減少下で地域の施工能力をどのように維持し、AIやICTをどのように実装するか。日本の「復旧力」は、防災政策と産業政策の接点で問われる課題となっている。