遺伝子が人の運命を決める──。ヒトゲノムの解読が進んだ2000年代初め、そんな未来像が盛んに語られた。癌も原因となる遺伝子異常を突き止めれば、その患者にぴったりの「特効薬」が見つかると期待された。

実際、ゲノム解析は癌治療を大きく変え、一人一人の違いに応じて治療を選ぶ「個別化医療」が飛躍的に前進した。

だがゲノム医療の恩恵を受ける患者が増える一方で、遺伝子さえ分かれば最適な治療が見つかる、というほど単純な話ではないことも明らかになってきた。そこで研究者たちはゲノム医療で得られた知見を土台に、「その人に合う治療」をより正確に見極めようと試行錯誤を重ねている。

かつては癌ができた臓器によって治療法を決めるのが一般的だった。だが個別化医療が進むにつれ、癌細胞の遺伝子も調べ、その特徴を治療法選びに生かせるようになった。

例えば同じ肺癌でも、癌細胞の増殖を引き起こす遺伝子異常には複数のタイプがあり、それを狙い撃ちする分子標的薬を選ぶことで治療効果が大きく高まる。さらに、癌ができた臓器が違っても、共通する遺伝子異常があれば同じ薬が選択肢になる場合もある。

一方で、遺伝子から得られる情報を、負担の大きな治療を避けるために生かせる場合もある。一部の乳癌では複数の遺伝子の働きを調べて、抗癌剤治療を省ける患者を見極める検査が実用化されている。

日本での大きな転機は、数十~数百の遺伝子異常をまとめて調べる「がん遺伝子パネル検査」が19年に保険適用になったことだ。以来、検査体制が全国に広がり、国立がん研究センターには14万人超のゲノム情報や診療情報が集積されている。

ゲノム医療は決して万能の切り札ではない
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