Andrew Silver

[上海 24日 ロイター] - 一般消費者に対する処方薬の直接広告が禁じられている中国では、減量薬メーカー各社が地下鉄駅やフィットネススタジオ、サッカースタジアムなどで肥満に関する啓発キャンペーンを繰り広げ、減量を促す「ステルス広告」戦略に出ている。

中国は世界第2位の医薬品市場だ。中国国家衛生健康委員会によると、同国では2030年までに過体重(肥満)の人の割合が65%を超える可能性がある。

デンマークのノボノルディスク、米イーライリリー、米ファイザー、中国の信達生物(イノベント・バイオロジクス)は、中国市場で週1回投与型の「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれる肥満症注射剤のシェア争いを繰り広げている。ジェフリーズによれば、第2・四半期にはアリババや京東集団(JDドット・コム)の電子商取引プラットフォームにおいて、この種の注射剤の販売でリリーが首位に立った。

中国では、製薬会社が処方薬を一般消費者向けに直接宣伝することは認められていないが、特定の疾病のリスクに関する情報を一般向けに提供し、医師への相談を勧めることはできる。こうしたキャンペーンは製品名には言及できないものの、間接的に受診を促す効果が期待できる。

上海中心部の地下鉄駅では最近、リリーのロゴが入ったバナー広告が「お父さんのいびきには要注意。速やかに呼吸器科または睡眠センターを受診して」と通勤客に呼びかけていた。いびきは睡眠時無呼吸症候群によく見られる症状で、過体重と強く関連している。リリーのGLP-1薬「マンジャロ」は臨床試験でこの症状を改善することが示されている。

同じ駅の壁面には先月、信達生物と料理宅配大手、美団の広告が掲出され「科学的な体重管理」を行えば脂肪肝を改善できると訴えていた。また、7月に蘇州のサッカースタジアムで行われた試合では「信達生物、減量はすごい!」という文言が繰り返し表示されていたことが交流サイト(SNS)の微博(ウェイボー)の動画配信で確認された。

ジムチェーンのスーパーモンキーはSNSの「小紅書」で、ファイザーとの提携による「健康的減量パーティー」を実施すると宣伝した。上海で開かれたそのイベントの一つでは、ファイザーの社員が参加者に対し、長続きする健康的生活習慣を築くお手伝いをしたい、と語った。その後トレーナーが参加者向けにウエートトレーニングを指導したと、後に削除されたファイザーの小紅書投稿に記されていた。

蘇州大学で科学コミュニケーションを研究するジャ・ヘペン教授は、肥満症薬関連のこうしたキャンペーンは、他の医薬品関連に比べてはるかに大規模だと指摘する。「高血圧や腫瘍などの処方薬について、製薬会社が公共の場や間接広告を通じて宣伝しているのを目にすることはほとんどない」という。

上海や広州の病院職員がロイターに語ったところによると、SNSでの宣伝や友人・家族の口コミをきっかけに、特定の減量薬を名指しで求める患者が現れている。当初はノボのセマグルチド(商品名ウゴービ)を希望する患者が多かったが、最近ではリリーのチルゼパチド(マンジャロ)や信達生物のマズドゥチド「信爾美」が増えているという。

<競合他社に負けるな>

ノボは2024年末、中国で週1回投与型GLP-1剤を最初に発売した企業だ。リリーと信達生物がそれぞれ25年1月、同年7月に続き、ファイザーの「Xianweiying」も4月に初めて登場した。JPモルガンの中国ヘルスケア調査責任者、ヤン・フアン氏はGLP-1剤の売上高が今後5―7年で300億元(約40億ドル)に達する可能性があると予測している。現在の市場規模は推定30億―40億元程度だ。

ノボの中華圏責任者、ツァイ・ヤン氏は3月に就任してすぐ、中国の医師らから、同社の情報発信が競合他社に比べて弱いと聞かされたと明かした。

その上で「競合他社の方が市民向けのコミュニケーションにずっと優れていると感じるなら、医療教育という観点から、われわれも伝え方を変えなければならない」と語る。

同氏によると、ノボは病院の医師だけを対象にするのではなく、さまざまな媒体を通じて肥満に関する情報を患者に届ける方針へと転換している。

ノボは先月、中国国営中央テレビ(CCTV)と共同で北京市街地で、グループダンスなどを取り入れた健康イベントを開催した。一般ユーザーのSNS投稿を見ると、会場では一部のGLP-1製剤が大規模な臨床試験で効果を確認されているとの説明も掲示されていた。

医療や法律の専門家らによると、一部の減量キャンペーンは一線を越え、処方薬広告の域に踏み込んでいる可能性もある。

例えば信達生物と美団による地下鉄広告は製品名の「マズドゥチド」こそ明記していなかったが、名前の響きが似たマスコットキャラクター「マードゥードゥー」が登場していた。

リリーは声明で、自社の啓蒙活動はいかなる特定医薬品も宣伝しておらず、中国の保健戦略とも整合的だと説明。ファイザー、信達生物、美団、中国の市場監督当局はコメント要請に応じなかったか、回答しなかった。

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