Claire Fu
[シンガポール 26日 ロイター] - 欧州連合(EU)は、中国との通商協議を前に中国国内の意外な場所から支持を得つつある。中国の輸出企業に不当な競争優位をもたらしていると批判される過度な残業について、同国の労働者が交流サイト(SNS)上で不満を訴えているためだ。
EUは昨年、中国との貿易で1日当たり約10億ドルの赤字を計上した。域内産業の空洞化や大規模な雇用喪失につながっているとして、EUは中国に対し、拡大する経済的な不均衡の是正策を10月までに示すよう求めている。
特にEUが問題視しているのは中国の弱い内需で、その背景には中国国内の賃金の伸び悩みや不十分な労働保護があり、これらが輸入需要を抑制。結果として、欧州からの輸入も伸びず、中国企業は生産した商品を海外市場へ積極的に販売せざるを得なくなっているという。
こうした状況下で、EUが以前から保有していた政策手段の一つの「EU強制労働規則」が、中国の厳しく管理されたインターネット空間で注目を集めている。2024年に採択され、27年12月から施行されるこの規則は、強制労働や非自発的な労働によって生産された商品を域内で禁止するもので、過度な残業もその対象に含まれる。
同規則は、中国で長年問題視されてきた「996文化」を経験している多くの労働者の共感を呼んでいる。「996文化」とは、午前9時から午後9時までを週6日働くという過酷な勤務形態を指す言葉だ。
中国版インスタグラムとも呼ばれる「小紅書(RED)」では「EUが強制労働に対して厳しい措置を取るのは正しいと思う。賛成か反対か」という投稿が掲載され、一時は約3000件の「いいね」を集めた後に削除された。コメント欄には制裁を支持する声が相次ぎ、EU当局への通報方法に関する情報も共有されていた。
専門家に話を聞くと、こうした話題への関心の高まりは、労働市場の悪化や、過剰生産能力と輸出市場での競争によって引き起こされるデフレ的な価格競争の中で、企業からの圧力が強まっていることへの労働者の不安を反映しているという。
ラトガース大学グローバル労働・雇用センターのディレクター、リュウ・ミンウェイ氏は「企業は国内で発生する個々の残業問題にはそれほど関心を示さないかもしれない。しかし西側市場へのアクセスを失う可能性となれば、はるかに深刻に受け止める傾向がある」と指摘した。
中国人力資源・社会保障省と、インターネット規制を担当する国家インターネット情報弁公室は、ロイターの取材要請に回答しなかった。
<中国の輸出企業と労働者の利害対立>
中国版TikTok(ティックトック)の「抖音(ドウイン)」では「EU通報サイト」や「EU通報手続き」といったタグが付いた動画の再生回数が20万回を超えた。正式な通報手続きを説明する動画には、5442件の「いいね」と714件のシェアが寄せられている。
中国の検閲状況を追跡する米国拠点の団体「チャイナ・デジタル・タイムズ」創設者のジャオ・チアン氏は、他のSNSではこの種の投稿の表示範囲が制限されているようだが、それでもこの話題が注目を集めたことは、多くの中国人が輸出企業の利益をそのまま国家利益と考えていないことを示していると分析。「再生回数自体は歴史に残らないかもしれない。しかし、国内の労働問題と外国の法執行制度を直接結び付けた初めての事例だった」と評価した。
EU欧州委員会のある関係者は、EU当局は過度な残業など労働関連の違反について非公式な情報提供を受けているものの、現時点で通報件数が目立って増えているわけではないと述べた。
中国の一部のSNS利用者は、米国当局への通報も提案している。米国は7月、強制労働の防止や監督が不十分であるとして、中国やEUを含む60の貿易相手先からの輸入品に対し、最大12.5%の関税を課した。
米税関・国境警備局(CBP)の広報担当者は、通報案件については守秘義務を理由にコメントを避けたものの「極端かつ組織的な未払い残業」を示す証拠があれば、サプライチェーン調査の対象となり得るとの見解を示した。
<長時間労働是正へ取り組みも>
中国人の平均労働時間は週48時間を超えている。一方、法定労働時間の上限は週44時間で、公式統計からも労働法の執行が十分でない実態が分かる。
そうした長時間労働の是正に向けた動きもみられ、昨年には家電大手の美的集団など一部の企業が、強制的な退勤時刻を設定する取り組みを発表した。
中国人民政治協商会議(CPPCC)の委員の1人は今年3月に公表した論考の中で、貿易相手国からの反発を招く恐れがあるとして、労働者保護の強化を訴えた。この委員はウェブサイトで「他国は、中国製品の価格競争力が過度に集中的な労働や低い生活の質によって支えられていると見なす可能性がある。これは中国のイメージを損なうだけでなく、実質的な貿易障壁につながる恐れもある」と警鐘を鳴らした。