Hugo Lhomedet Emma Rumney
[18日 ロイター] - 急成長するニコチンパウチは、たばこ大手各社にとって「紙巻きたばこ後」の時代を見据えた最重要事業の1つとなっている。ニコチンを含む小さな袋を上唇と歯茎の間に挟んで使用する製品だ。高い成長率と魅力的な利益率が見込めるだけでなく、現時点では多くの代替喫煙製品よりも規制が緩やかなことが追い風だ。
投資家の関心は、米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)の「Zyn(ジン)」や英たばこ大手ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の「Velo(ベロ)」といったブランドが、ニコチンパウチの利用が既に広がっている北欧諸国や米国を超えて普及するかどうかに向けられている。紙巻きたばこの販売減少が続く中で、新たな利益成長の柱となれるかが注目される。
ただこの市場には大きく2つの課題がある。まず口腔内で摂取するニコチン製品の文化が根付いていない国々で、喫煙者に切り替えを促せるのか。また若年層の利用拡大や販売手法への規制当局の懸念が高まる時代に、成長を維持できるかという点だ。
BATによると、英国やポーランドなどで需要が拡大しているほか、アジア・中東・アフリカ地域での販売数量は、2026年上半期に前年比27.5%増の約7億個に達した。もっとも、同社の米国・欧州事業で販売された30億個超と比べると、依然として規模は小さい。
同社のタデウ・マロッコ最高経営責任者(CEO)はインタビューで「ニコチンパウチは成長の原動力になると考えている。長期的には紙巻きたばこに取って代わる可能性を秘めている」と語った上で、他の代替製品と比べて安価で使いやすい点も強みとして挙げた。
<市場急拡大と高い利益率>
パウチは唇の下に入れる小さな袋で、ニコチンを含むが、たばこ葉を含まない。電子たばこや加熱式たばこ製品より速いペースで成長しており、多くの消費財の需要が低迷する中で投資家の注目を集めている。
BATはニコチンパウチ市場の売上高が25年の40億ポンド(約8700億円)から、30年には110億ポンドへ拡大し、電子たばこ市場を上回るとともに利用者数が4700万人に達すると見込む。これは電子たばこ利用者数の半分強に相当する。
PMIによれば、同社の米国ニコチンパウチ事業は24年段階で1000個当たりの粗利益が海外の紙巻きたばこ事業の8倍に達した。主力の加熱式たばこ「IQOS」は同2.4倍だった。
こうした高収益性が、投資家がこの市場を注視する一因だ。ジェフリーズのアナリスト、アンドレイ・アンドン・イオニタ氏は「たばこ企業の企業価値は、ますますニコチンパウチ事業の成果に左右されるようになっている」と指摘する。
BATの株主アバックス・インベストメンツ共同創業者のアンソニー・セジウィック氏は、ニコチンパウチが新たなニコチン消費機会を生み出していると語る。煙も蒸気も発生しないため、他の製品が制限される場所でも使用できるという。
クイルター・チェビオットのアナリスト、クリス・ベケット氏は、電子たばこ市場では中国企業が大きなシェアを握っているのに対し、ニコチンパウチ市場ではPMIとBATが主導権を握っていると説明した。
<規制は現時点で緩やか>
米食品医薬品局(FDA)は、喫煙者がニコチンパウチや電子たばこ、加熱式たばこといった代替品に完全に切り替えた場合、健康リスクを低減できる可能性があるとしている。スウェーデンやノルウェーでの長年の使用実績は、口腔内で使うニコチン製品のリスクが喫煙より大幅に低いことを示唆している。ただ、専門家はリスクがないわけではないと警告する。電子たばこなど使用実績が比較的短い代替品については、長期的な健康影響を巡る疑問が残る。
規制当局や公衆衛生団体は、若年層の利用拡大や積極的なマーケティング手法への警戒も強めている。一部企業はスポーツや音楽イベントのスポンサー活動、無料サンプル配布など、通常は他のニコチン製品ではあまり活用しない販促手法でニコチンパウチを宣伝してきた。
世界保健機関(WHO)はニコチンパウチ利用が拡大している背景には積極的なマーケティングと高濃度ニコチン製品の存在があると分析し、より厳しい規制を求めている。WHOによれば、26年5月時点で160カ国がニコチンパウチに関する特定の規制を整備しておらず、多くの市場では電子たばこや加熱式たばこと比べて規制が緩い状態にある。
一方、状況は変わりつつある。フランスはニコチンパウチを全面禁止し、フィンランドはプレーンパッケージの導入を含む規制を実施。英国や欧州連合(EU)でも規制強化が進められている。
BATとPMIはいずれも適切な規制を支持する立場を示しているが、資産運用会社クイルター・チェビオットのベケット氏は、規制強化が市場成長のペースを鈍らせる事態があり得るとの見方を示した。
<世界的普及への課題>
投資家にとって最大の関心事は、口腔内ニコチン製品の文化がない国々でも、ニコチンパウチが他の代替製品と同様の人気を獲得できるかどうかにある。ベケット氏は多くの国の消費者はニコチンを口から摂取するよりも、吸い込む形で摂取することに慣れていると指摘する。
ジェフリーズのアンドン・イオニタ氏は「北欧など一部市場を除き、口腔内ニコチンの文化が根付いていないことが普及拡大の最大の障害だ」と述べた。
現時点では紙巻きたばこが依然として業界の利益の中心だ。PMIにおいても、口腔ニコチン製品が総販売数量に占める割合はわずか2.6%に過ぎない。
実際PMIが第2・四半期決算で市場予想を上回る業績を発表した際、その要因は予想外の紙巻きたばこ販売の増加だった。資産運用会社バーンスタインのアナリストチームは「投資家はZynに注目し過ぎるあまり、引き続き伝統的なたばこ事業の重要性を見落としている」と指摘した。
多くのアナリストは今後ニコチンパウチが業界利益への貢献度を高めると予測しているものの、BATとPMIはいずれも、喫煙者のニーズは一様ではなく、複数の代替製品が必要だとの立場を打ち出す。
PMIの広報担当者は「成人喫煙者は同じ嗜好や習慣、味覚を持つ均質な集団ではない」と述べ、多様な製品群が重要だと付け加えた。