Alexandra Valencia Yury Garcia
[ハラミホ/サン・マテオ(エクアドル) 15日 ロイター] - 中米エクアドルの太平洋岸に朝の光が差し込むと、小型漁船が豊漁を願って沖へと出発する。入り江に戻った船ではマグロやメカジキが水揚げされ、仲買人たちが漁獲を確かめる。こうした漁港の光景からは、漁師らが海で直面する危険は想像もつかないだろう。
麻薬カルテルが西部マナビ県の小さな港をコカイン密輸の拠点に変え、操船に長けた地元漁師を脅して協力させている。麻薬密輸に加担して年収を上回る稼ぎを得るか、恐喝・脅迫・暴力にさらされるか──、漁師たちは究極の二択を迫られている。
沖合では、米国が「麻薬テロリスト」と見なす人物を標的に行う空爆が、何の前触れもなく漁師たちを襲う。米軍は昨年9月以降、船舶67隻を破壊し、220人以上を殺害した。米政府はこれらの攻撃自体と死者について、自らの作戦によるものだと認めている。
米国が実施を公表していない別の2件の攻撃でも、米軍特有の攻撃の特徴が確認されており、マナビ県の漁船が被害を受けた。ロイターは、うち1件の攻撃の生存者3人に取材したほか、地元人権団体「常設人権擁護委員会(CDH)」が集めた十数人の生存者証言を確認した。米紙ワシントン・ポストは先週、これらの船への攻撃が米中央情報局(CIA)の秘密作戦の一環だったと報じた。
漁師のシモン・ビジャクレセスさん(52)は、県最大の町マンタから出航した漁船「ネグラ・フランシスカ・ドゥアルテ2世」の乗組員16人の一人だった。航行中だった3月17日、船員らが頭上でドローンの飛行音を聞いた。その直後、調理場付近が攻撃を受け、船は炎に包まれた。
ビジャクレセスさんら生存者3人によると、船員は海に飛び込んだり、小型の動力船2隻に乗り込んだりした。近くにいるはずのマグロ漁船を目指した。だが、その先で待ち受けていたのは軍服姿で武装した男たちだった。彼らは英語で話していたという。
「彼らはわれわれに銃を向け始めた。私たちを船に連れ込むと頭に覆いをかぶせ、後ろ手に縛った」とビジャクレセスさんは語った。生存者と人権団体によると、乗組員らはその後、海上でエルサルバドル海軍の艦艇に移され、治療を受けた後、民間機で帰国したという。
その9日後、同じ地域の漁船「ドン・マカ」もドローン攻撃を受け、同様の経緯をたどった。
別の漁船「フィオレラ」では1月以降、漁師少なくとも8人が行方不明となっている。小型船に乗っていたフィオレラの船員2人は、主船が最後に確認された海域から煙が上がるのを見たとCDHに証言した。
ビジャクレセスさんは攻撃時に頭部を負傷した。体験した恐怖のあまり今も海には出られず、「もう二度と漁に戻らないかもしれない」と嘆いた。
<漁に出たいなら「上納金」>
漁船「ネグラ・フランシスカ」は普段、住民の大半が貧困の中で暮らす港町サン・マテオを拠点としていた。
エクアドルの麻薬対策当局者や地元警察、住民によると、近年、同国有数の犯罪組織「ロス・チョネロス」と「ロス・ロボス」が沿岸地域で勢力を広げ、漁師を密輸に強制的に加担させている。
米国は昨年、両組織をテロ組織に指定。いずれもメキシコの麻薬密売組織とつながっており、ロス・チョネロスは「シナロア・カルテル」、ロス・ロボスは「ハリスコ新世代カルテル」とそれぞれ関係を持つ。
警察と地元住民によると、協力しない漁師は出航1回につき1200ドル(約19万円)の「上納金」を支払うよう迫られる。この金額は平均的な月収の3ー4倍にあたり、拒めば本人や家族が報復を受ける恐れもあるという。コカインを運べば1回あたり最大4万ドルを稼ぐことができると、港町サン・マテオとハラミホの漁師や家族、警察が明かした。
エクアドル国家警察はこうした恐喝の実態について「一部の漁師は活動への参加を強要され、当局の摘発と犯罪組織による報復、双方のリスクにさらされている」と説明した。エクアドル警察は、過去5年間でハラミホの住民およそ300人が、麻薬密売容疑により米国またはエルサルバドルで収監されたと推定している。
行方不明者が出ている漁船「フィオレラ」の漁師の妻マリア・メロさんは、漁師たちは密売組織の脅迫や軍事攻撃を恐れ、もう海に出たがらないと話す。他の漁師らもロイターに対し、恐喝を避けるため夜間に操業したり、航路を変更したりしていると語った。
サン・マテオのある漁師は、これまで4回にわたり「上納金」を支払ったと明かした。組織は金銭を受け取ると許可航路を示し、さらなる支払いを強要されないため、船の灯りをつけたままにするよう指示してきたという。沿岸寄りで操業する小型船は要求される額が低く、上納金を支払ったことを示す証明書のようなものを渡されるとも話した。
<マグロ漁船で摘発>
米国、エクアドル、エルサルバドルは昨年以降、北方へ向かうコカイン輸送の主要ルートである東太平洋で、情報共有や監視、連携した阻止活動など、海上麻薬対策の連携を強化すると表明している。この取り組みは、米軍の「サザン・スピア作戦」、米沿岸警備隊の「パシフィック・バイパー作戦」と並行して進められている。
米南方軍は標的となった船が炎上する暗視カメラ映像を公開してきた一方で、死傷者数と生存者に関しては限られた情報しか公表していない。
3月17日の攻撃でビジャクレセスさんとともに負傷したレオネル・ピライさん(21)によると、乗組員は麻薬を運んでおらず、攻撃の数時間前にエクアドル沿岸警備隊の乗船・捜索を受けた際にも何も見つからなかったという。
常設人権委員会が集めた証言では、漁船「ドン・マカ」の乗組員もエクアドル海域でドローン攻撃を受けたと報告している。彼らもまた、米国人とみられる人々に救助され、その後エルサルバドル海軍の艦艇へ引き渡され、帰国したと証言した。
米麻薬取締局の元国際作戦責任者マイク・ビジル氏は、生存者証言や「特徴的な軍事行動の痕跡」から、米南方軍が船舶攻撃を実施したことを示す「十分な証拠」があると指摘。エクアドル海軍にはこうした攻撃を行うドローン能力がないとも述べた。
ジュネーブ拠点の国際組織犯罪対策グローバル・イニシアチブの上級分析官レナト・リベラ氏と、エクアドル陸軍元司令官ワグネル・ブラボ氏は、船の位置や米国による麻薬船攻撃の継続、同様の空爆を可能とするほかの勢力が地域内に見当たらないことから、2隻への攻撃は米国が行った可能性が高いとの見方で一致した。
米国防総省経由で米南方軍に攻撃に関する質問をしたが、同軍は「作戦上の保全と部隊防護」を理由にコメントを控えた。エクアドルのノボア大統領はロイターのコメント要請に応じず、軍は麻薬摘発に関する情報は機密だと回答した。エルサルバドル海軍は取材要請に応じなかったが、3月23日のフェイスブックへの投稿で、遭難したエクアドル人16人を救助したと発表した。
<「人はいくらでも替えがきく」>
米国とエクアドルは、公海上での阻止作戦が麻薬密売対策の要だとしており、今年これまでの大規模な押収を成果として強調している。ヘグセス米国防長官は「サザン・スピア作戦」について「国民を死に追いやる麻薬から祖国を守る」ものだと述べた。
米沿岸警備隊は並行して行う麻薬取り締まり作戦で、4月までにコカイン9万1000キロを押収し、密売容疑者160人を逮捕したと発表。3月には米沿岸警備隊とエクアドル海軍の共同作戦で、エクアドル船籍のマグロ漁船からコカイン760キロが回収された。これは今年上半期にエクアドル沖で押収された総量の約6%に当たる。
ただ、カルテル側が勧誘や恐喝の対象にできる漁師を大勢抱えている限り、船を爆破する作戦で密輸を抑制するのは難しいと、ビジル氏は言う。
エクアドル・グアヤキル大学の組織犯罪専門家ミシェル・マフェイ氏は、カルテルが小型漁船の利用を増やしているものの、コカイン輸送の大半は依然として大規模な商業港を経由していると指摘する。
「エクアドルの現政権や米国は、高速艇への対策を重視しすぎている。海上で爆弾を投下したからといって、漁師や貧困層、社会的に弱い立場の人々がこの活動へさらに引き込まれる流れを止めることはできない」とマフェイ氏は言う。
「人はいくらでも替えがきく。組織はその現実をよく理解している」