一般社団法人応用脳科学コンソーシアム(CAN)は6月3日、東京・平河町のJA共済ビルカンファレンスホールで「CAN2026年次総会記念フォーラム」を開催した。生成人工知能(AI)が社会に急速に浸透する中、テーマを「脳科学とAIの融合~脳型AI研究開発の意義と将来像~」に設定。その性能向上には膨大なデータと電力を要する現状を踏まえ、脳の情報処理原理を取り入れた「脳型AI」の重要性を広く共有することを狙いに企画した。
内閣府、文部科学省、経済産業省、総務省など多くの官公庁・学会が後援に名を連ね、企業や省庁、教育機関から数百人が参加する盛況となった。

導入講演「脳の省エネ性能と瞬時の意思決定」
開会にあたり、CAN代表理事・理事長の岩本敏男氏が、アカデミアと産業界を橋渡しするCANの役割の重要性を語り、「脳科学とAIの融合の先に何があるか」を参加者とともに考えたいとあいさつした。
続いて、CAN代表理事・会長で情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所の柳田敏雄氏が、開会あいさつを兼ねた導入講演「脳の省エネ性能と瞬時の意思決定」に登壇した。
柳田氏はまず、生成AIと人間の脳の対比から切り出した。今のAIは膨大な学習データと電力を投じることで性能を高めてきた。一方、人間の脳は無数の神経細胞が連携するネットワークでありながら、消費電力はわずか20ワット程度。極めて省エネルギーで瞬時に判断を下している。

その省エネの仕組みを、柳田氏は分子生物学の視点から解説した。手掛かりとなるのが、物理学の思考実験「マックスウェルの悪魔」である。容器内の分子を悪魔が仕切り扉の開閉で仕分ければ、外部からエネルギーを加えずに秩序を生み出せるように見える一見不可能なパラドックスだ。悪魔が「記憶した情報を消去する」瞬間には必ず一定のエネルギーを要することが理論的に解明されている。

柳田氏は、この仕組みが実際の生体分子でも働いていることを確かめてきた。すなわち、筋肉を動かすモーターたんぱく質は規則正しく動くのではなく、熱によるゆらぎの中から都合の良い動きを選び取ることで、驚くほど少ないエネルギーで仕事をするという。
脳も同様に、無数の神経活動のゆらぎの中から最適な状態を瞬時に選び出す仕組みを備えているとみられ、これが省エネ性能と一瞬の意思決定を両立させる鍵だと説明した。
将来的には、こうしたゆらぎの原理を応用した低消費電力の省エネAI計算機などの実現可能性にも触れた。