労働党党首に就任したアンディ・バーナムが7月20日、イギリスの新首相になった。多くの人が予想した展開だが、歴史的な日であることには変わりない。
前首相のキア・スターマーが6年前に党首を引き継いだときの労働党は、総選挙で4連敗を喫し、党の評判も大きく傷ついていた。労働党の支持率はわずか29%で、ボリス・ジョンソン率いる保守党に22ポイントの差をつけられていた。
スターマーは党を立て直す過程で「冷徹」と評され、自らそう認めることもあった。反ユダヤ主義に関与した者や党の方針に背いた人物を除名処分にするなど、党内の引き締めを行い、その一方で4年後の総選挙に勝つために準備を進めた。
追い風となったのは、政権を担っていた保守党で不祥事が相次ぎ、党首交代が繰り返されたことだ。労働党は2021年11月に支持率で保守党を逆転し、その優位を24年7月の総選挙まで維持した。スターマーは「国家の再生」を旗印に掲げ、「国が第一、党は二の次」というスローガンで支持獲得を目指した。
その戦略は一定の成功を収めた。労働党は24年の総選挙で圧勝したが、それはスターマー個人の手腕だけでなく、イギリスの選挙制度に支えられた部分が大きかった。投票した有権者の3分の2近くが労働党以外に票を投じ、投票しなかった有権者も多かったにもかかわらず、労働党は412議席を獲得。党史上2番目に多い議席数を背景に、政権を発足させた。
しかし「国が第一、党は二の次」という理念は、政権運営の指針としては必ずしも機能しなかった。首相就任後のスターマーは福祉制度改革、年金受給者への冬季暖房費補助の削減、農家への相続税増税などで党の内外から反発を招いた。急速に支持を伸ばしている右派政党リフォームUKの主張をまねているだけだとの批判も浴びた。
国民と党内の双方から圧力を受け、スターマー政権は相次いで方針転換を迫られた。追い打ちをかけたのが、ピーター・マンデルソンの駐米大使任命だ。性的人身売買で起訴され、拘置施設で死亡した米富豪ジェフリー・エプスタインとマンデルソンの親密な関係が改めて注目されると、党内をまとめるスターマーの力を疑問視する声がさらに高まった。
国民の支持も急落した。労働党が世論調査で保守党に対するリードを失うまでには、1年もかからなかった。スターマーは国際舞台では存在感を高めたものの国内での立場は弱まり、今年5月のイングランド地方選での惨敗と相次ぐ閣僚辞任が退陣への流れを決定付けた。
こうしたなかでバーナムは6月、イングランド北西部メーカーフィールド選挙区の下院補欠選で当選。党首選の立候補資格である下院議員の座を手にした。
6月22日、バーナムが議員就任の宣誓を行う数時間前に、スターマーは首相官邸前で辞任を表明した。労働党党首として6年、首相として2年の務めに終止符が打たれ、既に後任は決まっていた。イギリスで過去10年に誕生した新首相は、バーナムで6人目だ。
24年7月の総選挙以降、労働党の政策は幅広い層から批判を浴びた。ドナルド・トランプ米大統領によるイラン戦争への同調を拒んだことなど評価された判断もあったが、多くの政策は賛否が分かれるものだった。
雇用権利法案は労働組合を失望させるほど骨抜きにされ、福祉制度改革をめぐっては、行きすぎだという党内の議員と、不十分だと考える障害者団体の双方から批判を受けた。国民保健サービス(NHS)の下で働く若手医師や大学の教職員が行うストや争議は、従来の労働党支持層の一部を緑の党へ向かわせた。
労働党は難民や移民政策ではリフォームUKに近い主張を展開したが、同党のナイジェル・ファラージ党首への支持流出を止められず、保守党政権とは異なる政治を期待した有権者を失望させた。
バーナムには難題が待ち構えている。右派のリフォームUK、左派の緑の党、そして態度を決めかねている中間層という3方面に対処しなくてはならない。さらに、スターマーには欠けているとされた政権運営能力や判断力も示す必要がある。
ただしバーナムを人気者にした資質が、そのまま首相官邸でも通用するとは限らない。これまではグレーター・マンチェスターの市長として、政府との対立も恐れずに発言し、成果を自らの手柄にし、地元と深く結び付いた存在でいる自由があった。
だが政府を率いる立場となると、そうはいかない。利害の調整を図らなくてはならず、連帯責任を求められることもある。そしてマンチェスターだけではなく、イギリス全体を見つめる国民と向き合わなければならない。
バーナムと同じくスターマーも、首相官邸に入ったときは大きな期待を背負い、多数の議席の後押しを受けていた。バーナムはスターマーとは異なる未来を築けるのか。それはスターマーとの違いを言葉で語るだけでなく、どれだけ早く実際の統治で違いを示せるかに懸かっている。
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Hannah Bunting, Senior Lecturer in Quantitative British Politics and Co-director of The Elections Centre, University of Exeter
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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