イスラエルのユダヤ社会は歴史的なルーツによって分類される。東欧系は「アシュケナジ」、イベリア半島系は「セファルディ」、中東・北アフリカ系は「ミズラヒ」、エチオピア系は「ベタ」と呼ばれる。
国家は平等を理念に掲げてきたが、政治や官僚機構、経済界、学術界など国家の中枢を担ってきたのは主にアシュケナジである。48年の建国以来、歴代首相14人全員がアシュケナジ系なのも、その証左だ。
教育や所得をめぐる格差は縮小しつつあるとはいえ、ミズラヒを含めたその他グループとの間には今なお社会経済的な差が残っている。
この構図は軍社会とも共鳴する。徴兵制を採るイスラエルにおいて精鋭部隊出身という名誉は、除隊後に政財界のエリート入りするための特急切符だ。
だが、精鋭部隊の多くは長らくアシュケナジが占め、ミズラヒは後方支援部隊などに配属されてきた。出自ではなく能力で評価されるはずの軍ですら、見えない階層構造を完全には克服できなかったのである。
イスラエル軍の歴史に詳しい専門家は、「かつては軍内で『アシュケナジ』や『ミズラヒ』という言葉を口にすること自体がタブーだった」と指摘する。
そうした時代を経て、ミズラヒ出身のアイゼンコットは参謀総長にまで上り詰めた。もし首相に就任すれば、建国以来続いてきた「ガラスの天井」を破る象徴的な出来事となるだろう。