[ニューデリー 25日 ロイター] - インドの10代や20代の「Z世代」の若者を中心とする団体「ゴキブリ人民党(CJP)」の指導者らが、大学入試問題の漏えい疑惑を巡って教育相の辞任を求める抗議活動を始めてから約5週間後の23日夜、モディ首相は珍しく自撮り動画をインスタグラムに投稿して「学生たちが苦しんでいることに心を痛めている」と述べ、問題解決に向けた対策を講じると約束した。
しかしこの動画だけでは抗議の火を消せなかった。数千人の若者たちは数日前の大規模な警察の取り締まりにも屈せず、首都ニューデリー中心部に集結。その動きは全国へと広がった。そして25日、政府はついに抗議活動の最大の要求に応じる形でプラダン教育相を辞任させた。モディ政権にとっては異例の譲歩だ。
一方、CJP側は明確な勝利を得た。ラップ音楽やプラカード、落書きなどを通じて公然とモディ氏を風刺してきた若者たちの行動は、2014年の政権発足以来モディ氏が圧倒的な政治的支配力を維持してきたインドでは、わずか数週間前までは到底考えられなかった光景だ。
ロンドン大学SOASのサンジェイ・スリバスタバ教授(人類学)は「抗議活動に参加した人々の中には、実際にはモディ氏の支持者も多数含まれていた可能性があり、これまでの抗議運動とは大きく異なる点だ。本当の成果は、政府に疑問を投げかける人々の層がはるかに広がったことだ。与党が必ずしも国のためになる存在だとは限らないと考える人が、より幅広い層に広がり始めている」と分析した。
今回の抗議の発端になったのは医科大学入学試験の問題漏えいだった。しかし専門家によれば、その背景にはより大きな不安が存在する。若年層の失業問題や、インドが強みとしてきたIT関連の事務業務などの分野で人工知能(AI)に仕事を奪われるのではないかという懸念だ。
政治アナリストのアミタブ・ティワリ氏は「試験問題漏えいはあくまで引き金に過ぎず、根底にあるのは若者たちの不安、焦り、不満、挫折感、そして怒りだ」と指摘する。
<若者の声取り込めない政府>
ティワリ氏によると、18歳から40歳のインド人は人口のおよそ40%を占める一方で、下院議席に占める割合はわずか約10%。1950年代はその倍以上だった。閣僚の平均年齢も60歳を超えている。
そうした中でCJP自体は政党ではないものの、野党各党はこのまれな反政府運動の高まりを好機と捉え、学生たちの主張への支持を打ち出している。
若者の不満が最初に選挙結果として表れる可能性があるのは、来年行われるウッタルプラデシュ州やパンジャブ州、そしてモディ氏の地元グジャラート州の州選挙だ。ウッタルプラデシュ州とグジャラート州はいずれも与党インド人民党(BJP)が政権を握っている。
さらにモディ氏にとって29年の総選挙が大きなリスクとなり得る。もしCJPが政党化すれば、大きな政治勢力となる可能性がある。ただし創設者のアビジート・ディプケ氏は、現時点で選挙政治への参加は決定していないとしている。
これまで若年層の有権者は宗教やカーストを重視して投票する傾向があり、そのことがヒンドゥー民族主義を掲げるBJPを有利にしてきたとされる。しかしその構図が変わり始めているとの見方もある。
実際に南部の経済先進州タミルナドゥ州では、インスタグラムを中心とした若年層の支持基盤を持つ俳優が、自ら率いる政党で選挙に勝利し、野党と連携して州首相に就任した。
作家のアヌラグ・マイナス・ベルマ氏は「今回の出来事はモディ氏にとって大きな試練だった。そして政府がZ世代の求めるものをまったく理解していないことを浮き彫りにした」と言い切った。
その上で「長年にわたってBJPのデジタル戦略はXを中心に展開されてきたが、若者たちの政治的な会話の場は、今やインスタグラムへと移っている」と付け加えた。
BJPはインドの大部分を統治し、自らを「世界最大の政党」と称している。ただインスタグラムのフォロワー数は長年活動していながら約1000万人にとどまり、CJPがわずか数日で獲得した2200万人の半分にも満たない。
対照的にBJPはXで2300万人、フェイスブックで1800万人のフォロワーを抱え、モディ首相個人の影響力は依然として大きい。
コラムニストのサントシュ・デサイ氏は「インスタグラムでは『本物らしさ』が求められ、入念に作り込まれたメッセージは通用しない。このプラットフォームは若い世代によって作られ、若い世代によって発展してきた。彼らは権威に対して特別な敬意を払うわけではない」と解説する。
モディ氏はこの10年間、自らの誤りをほとんど認めない強力かつ決断力のある指導者として国内を統治してきた。また政権は長らく世論の圧力による閣僚更迭にも消極的で、21年に農業関連法を撤回した際も、農民たちの抗議活動がほぼ1年も続いた。
ティワリ氏は「これからは、人々の声に耳を傾けるリーダーが支持を集めるだろう。モディ首相は今まさに、自分がそうしたリーダーであることを示そうとしている」と述べた。