Saqib Iqbal Ahmed Laura Matthews
[ニューヨーク 13日 ロイター] - タカ派的な米連邦準備理事会(FRB)の姿勢を背景とした今年のドル高は、世界の年金基金が為替ヘッジを巻き戻している動きに支えられている。為替ヘッジは、昨年のトランプ米大統領による「相互関税」発表が巻き起こした市場の混乱を受けて実施されていた。
米国の物価指標上振れと、FRB新議長にケビン・ウォーシュ氏が就任したことで、米国の最近数カ月の実質金利は上昇している。
一方、ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)の為替ヘッジ比率分析によると、カナダ、オランダ、デンマークの年金基金は、ドル建て保有資産の為替リスク回避として昨年開始したヘッジのポジションを縮小させつつある。
こうした巻き戻しがドルにかかる圧力を和らげ、投資家は「米国売り」のトレードを通じてドル離れを起こしているという一時流行した見方はさらに後退した。
包括的なヘッジデータは乏しい。だがトロントの決済会社コーペイのチーフ市場ストラテジスト、カール・シャモッタ氏は、他の地域の実需投資家の間でも同じような構図になっているようだと述べた。
シャモッタ氏は「長期のヘッジはコストがかさみ、リターンを損なう恐れがあるので、増加分の一部が現在巻き戻されている。その多くは、企業がヘッジの期限が来ても更新せずにそのまま消滅させるという受動的なものだ」と解説する。
ドル建て保有資産が為替変動からどの程度保護されているかを示すヘッジ比率は、一部のデンマークの基金で1年間に5ポイント、一部のカナダの基金では1ポイント低下した。
Wファーゴの為替戦略グローバル責任者を務めるエリック・ネルソン氏は、世界の年金基金によるヘッジの動きに言及して「米国売りが誇大広告だったわけではない。そこには本物の資金フローが存在していた。しかしヘッジへの衝動は薄れた。それらのトレンドはその後、逆転している」と指摘した。
<タカ派のFRBが影響>
ドルが1年ぶりの高値近辺で推移している状況で、タカ派的なFRBへの期待がヘッジのハードルになっている。
外国投資家はドルを先渡し(フォワード)取引で売ることで為替リスクをヘッジするが、ヘッジコストは米国と自国の金利差に連動するため、米国の金利上昇はヘッジコストを押し上げ、差し引きのリターンを低下させてしまう。
短期金利は米国がユーロ圏を約140ベーシスポイント(bp)上回っているため、海外の多くの投資家にとってドル建て保有資産の為替ヘッジは依然としてコストが高い。
みずほアメリカズの為替・新興市場デリバティブ責任者を務めるガース・アッペルト氏は「米国の実質金利の上昇はドル投資の魅力を高める一方で、為替ヘッジのコストも増大させる。そのため大手投資家は米国株の保有資産の多くをヘッジせずに残すことを選択している」と述べた。
ドルと米国株の相関関係の変化も、外国投資家にとってヘッジの緊急性を低下させている。
昨年4月にトランプ氏が「相互関税」を発表すると市場は動揺した。ドルは典型的な安全資産としての動きを見せず、米国株と連動して下落。これは、米国株に多額の投資をしている外国投資家にとって、実質的なダブルパンチとなった。
インサイト・インベストメントのマクロ・ディスクレショナリー・通貨ソリューション責任者を務めるアレックス・モロニー氏は「市場参加者は過去10年間にわたり完璧なヘッジとして機能していたポジションで、従来の2倍の損失を出していた」と振り返る。
ところが今年は、ドルが特に米国とイランの紛争後のリスクオフ局面において、再び安全通貨としての地位を取り戻している。
それとは別に昨年はトランプ氏が当時のパウエルFRB議長を繰り返し攻撃し、投資家がFRBの独立性を懸念してドルが売られた経緯がある。そうした懸念とドル売り圧力も、ウォーシュ議長誕生以来和らいだ。
<ドルに当面死角なし>
為替ヘッジの縮小は、わずかとはいえドル高進行の足かせになり得る要素を取り除くことになる。
モロニー氏は、ヘッジ取引の資金フローがドルにとっての逆風となっていたのと同様に、こうしたフローの不在は「今後ドルのささやかな支えとして機能しそうだ」と予想した。
もっともこの先のドルの道筋は、依然として外国投資家にとって強力な魅力となっている米国の人工知能(AI)投資ストーリーが成功し続けるかに左右される面が非常に大きい、というのがアナリストの見立てだ。
もし投資家のAIトレードに対する期待が楽観的過ぎると判明し、米国の成長が損なわれれば、投資家はヘッジの必要性を再検討するかもしれない。
ただし今のところドルに死角は見当たらない。Wファーゴのネルソン氏は「ドルの金利、ドルのキャリー収益、そしてドルの株式リターンがいずれも高いという状況なので、それが変わるまでは総じて強いドルが支配する世界が続くだろう」と語った。