Shivangi Acharya Manoj Kumar Trevor Hunnicutt

[ニューデリー/ワシントン 13日 ロイター] - インドがトランプ米政権(共和党)との間で6月に暫定貿易協定締結で合意しなかったのは、より有利な条件を求めて粘り強く交渉を続けているためなのが分かった。インドのモディ首相が新たな貿易相手との関係強化や経済リスクの緩和、国内での政治的成果への自信を深めていることが背景にある。複数の当局者とアナリストが明らかにした。

両国は数カ月間にわたって貿易交渉を繰り広げた後、米通商代表部(USTR)のグリア代表が6月にインドを訪問したものの暫定貿易協定の合意には至らなかった。交渉の経緯に詳しいインド政府当局者は合意に至らなかった要因として、インドからの主な要求事項だった中国などの競合国に対して関税上の優遇措置を設けることや、協定締結後に新たな関税を課さない保証を米国側が提示しなかったことを挙げた。

この当局者は「私たちの立場は明確だ。有利な条件ではない合意に急いで飛びつくつもりはなく、農業分野での譲歩といったレッドラインについて妥協するつもりもない」と説明した。

トランプ大統領が今月下旬に発効させる見込みの新たな関税措置を準備している中で、米国はインドが貿易交渉で早々と譲歩することを期待していたと当局者やアナリストらは明かす。グリア氏との会談翌日、インドのゴヤル商工相は自国の利益が保証されない限り、米国と合意できないとの見解を示していた。

米国は現在、インドからの輸入品の大部分に10%の関税を課している。トランプ政権は今月下旬、各産業の過剰生産能力に関する調査結果を踏まえた追加関税を導入するとみられている。米国はインドが過剰な生産能力を抱えていると主張しているが、インド側は否定している。

また、強制労働で生産された製品の貿易を抑制できていないとの主張に‌基づいてトランプ政権はインドなど数十カ国からの輸入品に最大12.5%の関税を課すことを提案している。

米国側の情報筋によると、米国はインドが求めている貿易上の優遇措置を得るためには、インド側も譲歩する必要があるとの立場を取っている。米国は合意を期待してインドと協議を続けているとしながらも、具体的なスケジュールには言及しなかった。

ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は「トランプ政権は、米国民と米国を第一とする歴史的な貿易協定を締結するため、インド当局者と建設的な対話を続けている」とコメントした。

インド商工省およびUSTRは、ロイターが電子メールで送ったコメント要請に応じなかった。

<インドの輸出が増加、経済リスクが緩和>

当局者らによると、インドからの2026年4―6月のモノの輸出額は前年同期比で約15%増え、米国とイスラエルによるイラン攻撃に端を発した中東紛争による混乱にもかかわらず石油製品の価格高騰に支えられた。

湾岸諸国への輸出額は、貿易業者が代替の輸送ルートに切り替えたことで5月に53億ドルとイラン攻撃前の水準を回復し、3月の26億2000万ドルから増加。戦争前の水準まで回復した。一方、4―5月の米国への輸出額は172億9000万ドルとなった。

インドと英国の自由貿易協定(FTA)は今月に発効予定で、欧州連合(EU)とのFTA協定も来年早期までに締結される見通しだ。

米首都ワシントンに拠点を置くアジア・ソサエティ政策研究所の上級副所長で、元USTR幹部のウェンディ・カトラー氏は「インドの交渉担当者は同国の好調な経済、他の相手国との多角化への取り組み、世界での戦略的地位を背景に、交渉で一定の優位性を得ている」と指摘する。

米金融大手ゴールドマン・サックスのレポートで、エコノミストのサンタヌ・セングプタ氏は、米国とイランの暫定和平合意により、高騰していた原油価格が緩和されたことで、インドの経済見通しが改善したと言及。インドの26年の国内総生産(GDP)見通しを前年比6.8%増に上方修正し、インフレ率と経常収支赤字の予測を下方修正した。

このことは、インドが米国からより有利な条件を引き出すための経済的余地を確保したことを示す。さらに外国為替市場でのルピー安も輸出企業の競争力を向上させている。

<米国の動向を見守る>

インド当局者の1人は、トランプ政権の関税措置の一部が法的または政治的な試練に立たされる可能性もあると見込んでいることも明らかにした。

野党民主党が主導する22州の司法長官は6日、強制労働で生産された製品の​貿易を抑制できていないとの主張に‌基づきトランプ政権が提案している関税に反対を表明した。

貿易アナリストらはインドが米国との性急な貿易協定締結に抵抗できている要因として、トランプ関税を巡る法的な不確実性や、モディ政権が最近の州選挙で勝利したことを挙げた。

グローバル・トレード・リサーチ・イニシアチブの創設者であり、元通商交渉担当官のアジャイ・スリバスタバ氏は「インドは一時的な関税軽減の恩恵をはるかに上回る代償を伴う義務を課されるよりも、性急な合意を遅らせるか、放棄した方が賢明かもしれないと認識している」と話した。

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。