Yusuke Ogawa
[東京 13日 ロイター] - 2026年1─6月に日本企業が関与したM&A(合併・買収)は、前年同期比5.1%増の2647件となった。日本企業による海外企業の買収は減少した一方、歴史的な円安などを背景にして、海外勢による日本企業への投資案件は約3割増加した。
6月の株主総会ではアクティビスト(物言う株主)による提案も相次ぎ、海外ファンドの存在感は一段と高まっており、政財界では制度面での対策を求める声が出ている。
レコフデータが、買い手または売り手のいずれかに日本企業が関与したM&A(出資を含む)を集計した。日本企業による海外でのM&A(IN─OUT)は、309件と前年同期比8.3%減少した。一方、日本企業同士のM&A(IN─IN)は事業承継案件を中心に、5.3%増の2106件となった。海外企業による日本国内でのM&A(OUT─IN)は27.5%増の232件となり、過去最多を更新した。
OUT─INの主な事例では、日本板硝子が3月、銀行団による債務株式化(DES)と合わせて、米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントから約1650億円の出資を受けると発表した。総額約3000億円の支援を通じて既存株主から株式を買い取り、非公開化によって経営再建を目指す方針だ。
東京海上ホールディングスは3月、米投資会社バークシャー・ハサウェイと資本業務提携し、同社から2.5%相当(2874億円)の出資を受け入れると発表した。
このほか、大手化学メーカーの太陽ホールディングス(HD)に対し、米投資ファンドのKKRが約5000億円を投じて買収すると発表した。KKRは株式非公開化に向けて、10月をめどにTOB(株式公開買い付け)に入る予定だ。
太陽HDを巡っては、香港を拠点とするアクティビストファンドのオアシス・マネジメントが主要株主に浮上し、経営陣との対立が表面化。25年6月の定時株主総会では、創業家などの反対もあり、当時の佐藤英志社長の取締役再任案が否決されるなど、経営の混乱が続いていた。
太陽HDは、非公開化によって「安定的な株主構成のもと、長期的視点に基づいた経営戦略を遂行する」としている。
<非中核事業売却の受け皿に>
OUT─INの増加について、M&A助言を手がけるフロンティア・マネジメントの山田毅マネージング・ディレクターは「円安が要因の一つになっている。海外投資家からは『日本市場の企業価値が相対的に下がり、投資しやすくなった』との声をよく聞く」と指摘する。
7月1日の東京外国為替市場では、円相場が一時1ドル=162円台後半まで下落し、1986年12月以来、約39年半ぶりの円安・ドル高水準を付けた。ドル建て資金を運用する海外投資家にとって、円安は日本企業の株式を割安に取得できる利点がある。
さらに、政府主導の企業統治改革や東京証券取引所による資本効率改善の要請も、引き続き追い風になっている。米投資銀行フーリハン・ローキーの酒井圭一マネージングディレクターは「日本企業の間で非公開化や、非中核事業を切り出す動き(カーブアウト)が広がる中、海外の投資ファンドが受け皿となるケースが増加している」と語る。
レコフデータによると、26年上半期の外資系投資会社による日本企業へのM&A案件は139件(前年同期比27.5%増)、金額ベースでは3兆8255億円(47.3%増)に達した。
広がる商機をつかもうと、欧州系投資会社アウレリウスが6月に東京オフィスを開設したほか、いったん日本市場から撤退した買収ファンドが再進出する動きもある。また、日本に参入しているアクティビスト・ファンド数は20年の46から、25年には75に増加した。
<動く政界、自民議連が提言>
こうした中、経済界では海外勢の攻勢に対して警戒感も出ている。関西経済連合会は、一部のファンドが短期利益の追求を目的にしているとして、「企業は(株主や債権者だけでなく)多様なステークホルダーへの貢献を重視すべきとの規定を会社法に盛り込むべき」との意見書を公表した。
経済産業省は2月、M&Aにおける企業の行動指針を巡る研究会を3年ぶりに再開。「同意なき買収」が増える中で、買収提案を受けた際の取締役会の対応として、中長期的な企業価値向上を意識し、価格以外の要素も判断材料となり得ることを明示する方向で議論が進んでいる。
政界では今年に入り、自民党の資産運用立国議員連盟が、臨時株主総会の招集請求権や株主提案権の厳格化を盛り込んだ提言を取りまとめた。党内では6月に、アクティビスト対応などを議論するプロジェクトチームも発足している。
企業法務に詳しい西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士は、「円安の進行により日本企業は海外勢の投資対象になりやすく、この流れが直ちに沈静化するとは考えにくい」と述べた上で、「これまでの日本の市場改革は、本来の趣旨以上に『株主第一主義』として受け止められた面がある。現在は、そのバランスを取り戻そうとする局面にある」との見方を示した。
(小川悠介 編集:橋本浩)