Miho Uranaka Anton Bridge
[東京 8日 ロイター] - 国内資産運用会社が、海外投資家向けの円債ビジネスを強化している。日本の金利上昇を背景に海外勢が円建て債券への投資を見直す動きが進む中、みずほフィナンシャルグループ系列の資産運用会社アセットマネジメントOne(アセマネOne)が欧州の機関投資家から新たな円債運用戦略への投資決定を獲得したことが分かった。国内最大手の野村アセットマネジメントは元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの幹部を採用し、債券運用戦略の提案を強化、新たな運用マネーの取り込みを狙う。
<円債ビジネスを強化>
「金利が上昇すれば円債への需要は今後拡大すると考えた」。アセマネOneで機関投資家向けビジネスを統括する三木威・常務執行役員はロイターの取材にこう語った。同社は日銀の金融政策正常化を見据え、約2年前から海外営業部門を再編。従来主力だった日本株関連の商品に加え、円建て債券にも注力してきた。
今年1月には円建て債券で上場投資信託(ETF)を設定。さらに2月には日本国債と社債を組み合わせたアクティブ運用の海外向け円債ファンドを、欧州連合(EU)を中心に英国やアジアなどで販売可能なUCITS(ユーシッツ)規格で設定した。UCITS規格のアクティブ日本債券ファンドとしては、約30年ぶりの設定となった。
三木氏は「一昨年までなかったような引き合いが出てきているのは間違いない。米国集中リスクを回避したいという動きも背景にある」とした上で、「需要が爆発的に増えるとは見ていないが、何百億円で終わる市場でもない。何千億円単位で年間積み増しできるならやろうということだ」と語った。
複数の関係者によると、アセマネOneは6月、欧州の機関投資家から同ファンドへの投資決定通知を受領した。同社にとって、海外の機関投資家から円債運用マンデートを獲得する初の案件となった。アセマネOneの広報担当者は「個別案件に関するコメントは差し控える」とした上で、「海外投資家の円債運用戦略への関心は高まっているとの認識」した。
国内最大手の野村アセットマネジメントも円債事業を成長分野に位置付ける。今月、新たに円建て債券の絶対収益型戦略を立ち上げる。社債を中心に保有しながら国債先物で金利リスクを機動的に調整し、金利上昇局面でも低下局面でも収益を狙う戦略だ。まずは国内機関投資家向けに提供し、海外機関投資家向けに展開することも視野に入れる。
販売体制も強化する。同社によると、7月6日付でゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(英国)からリチャード・ヘイスティングス氏をエグゼクティブ・ディレクターとして採用した。ヘイスティングス氏は投資適格社債など幅広い債券運用戦略を担当した経験を持ち、欧州拠点で債券クライアント・ポートフォリオ・マネージャー(CPM)として海外機関投資家向け営業や運用ソリューションの提案を担う。
クライアント・ポートフォリオ・マネジメント・グループリーダーの石田雄士氏は「経験豊富なCPMが加わることで、本格的に円債を含めた提案を進められる」と話し、海外投資家の需要拡大を見据えた現地での提案力強化に期待を寄せる。
<社債戦略に商機>
日本ではインフレ率が日銀目標の2%近辺で推移し、金融政策の正常化が進む中、超低金利時代の終わりを織り込む形で金利水準が切り上がっている。消費減税や防衛費の増額、AI(人工知能)など成長分野への積極投資を掲げる高市早苗政権の財政運営に対する市場の警戒感も強まっており、日本国債10年物利回りは今年5月に約29年ぶりの高水準を付けて中国や台湾の国債利回りを上回った。為替ヘッジ後の利回りも改善しており、海外投資家にとっては円建て債券への投資妙味は増している。
国内運用会社にとって、日本国債を軸に社債を組み入れて信用スプレッドを取り込み、リターンの上積みを図ることが有力な戦略の一つとなる。日本国債は海外投資家でも直接投資できる一方、日本企業の社債は信用分析や銘柄選択が欠かせず、長年培った企業を分析する力が運用会社の強みになる。
「投資家からは『どのようなモデルポートフォリオを組めるのか』といった問い合わせが寄せられている」と、三井住友DSアセットマネジメントのプロダクトスペシャリスト、林徹二氏は語る。高格付けの社債では、ある程度のスプレッドを安定的に確保できるため、投資家はスプレッド収益と日本国債の利回りの双方を享受できるという。
もっとも、日本の社債市場は欧米に比べ市場規模や流動性が限られ、投資家層も一部の機関投資家に偏る。金利のある世界への移行で社債発行や投資家層の拡大が進めば、市場の厚みも増すとの期待が高まる。
<外資勢も市場拡大に期待も、慎重論なお>
市場拡大を見据えた動きは外資の資産運用会社にも広がる。英ブラックロックは今年、円建て投資適格社債を主要投資対象とする世界初のアクティブETFを投入した。同社の渡辺寛史クライアントビジネス部門長は「発行体が増え、投資家層が広がることで流動性が高まり、海外投資家も投資しやすくなる。そうした好循環に入りつつある」とし、「ETFはその好循環の先駆けだ」と話す。
もっとも、足元の国債市場に対する海外勢の評価は一様ではない。仏アムンディのグローバル債券ポートフォリオでは、日本国債に対する見方を年初には数十年ぶりに中立からやや強気へ引き上げたものの、その後は日銀の追加利上げを巡る不透明感や政府の財政運営への懸念を背景に再び慎重姿勢へ転じた。
それでもアムンディ・ジャパンの有江慎一郎債券運用部長は現在のスタンスについて、「いつ買おうかというタイミングには入っている」と述べ、円債への投資機会は着実に近づいているとの認識を示した。
(浦中美穂、Anton Bridge 編集:久保信博)