AI(人工知能)による成り済ましコンテンツが増殖するなか、シンガーソングライターのテイラー・スウィフトが4月、自身の声とステージ写真の商標登録を申請した。
【動画】テイラー・スウィフト、AIの悪用をめぐり音声と写真を商標登録申請
対象としたのは2023年3月から翌年12月に行ったエラズ・ツアー中のステージ写真1点と、「Hey, itʼs Taylor(こんにちは、テイラーです)」と「Hey, itʼs Taylor Swift(こんにちは、テイラー・スウィフトです)」と語っている音声クリップ2点だ。
彼女が業界の慣行に反旗を翻し、アーティストの権利を主張するのはこれが初めてではない。14年にはアーティストに支払われる報酬が低いことに抗議して、音楽配信サービスのスポティファイから自身の楽曲を全て引き揚げた(17年に和解)。
19年には音楽業界の大物のスクーター・ブラウンと一騎打ちの戦いに挑んだ。ブラウンはスウィフトが過去に所属していたレーベルを買収。そのレーベルから出したアルバムの原盤権を自分に無断でブラウンが握ったことに反発し、スウィフトはそれらのアルバムを全て再録音した。ファンは彼女の決断を支持。再録音版はストリーミングの再生回数でオリジナル版を上回った。
先陣を切って闘ってきたスウィフトだが、商標登録では俳優のマシュー・マコノヒーが一歩先んじた。彼は今年に入って、AIによるフェイク対策として映画の決めぜりふなどの商標登録を申請し、承認された。
マコノヒーに続き、音楽業界ではスウィフトがいち早く出願に踏み切ったことは、著作権やアーティストの権利を考える上で見逃せない動きだ。
音楽作品は楽曲そのものに加え、音源も著作権法で保護されている。音楽産業はこうした形態の知的財産(IP)を独占的に商業利用して収益の多くを得ており、その独占性は法律で保障されている。
そのためスウィフトの歌唱を無断で商業利用することは不法行為となる(一部を切り取るサンプリングも駄目)。だが他人がスウィフトそっくりに歌ったり、AIを使ってそっくりに生成した音源を営利目的で利用する行為が著作権侵害に当たるかどうかははっきりしない。
参考になるのは、1980年代後半に歌手のベット・ミドラーが自動車大手フォード相手に起こした訴訟だ。ミドラーが問題にしたのは、フォードが元バックコーラスの歌手に自分の持ち歌を自分そっくりに歌わせてCMに使用したこと。裁判所はこれを不法行為に当たると判断した。
この事例から、歌手の声やスタイルをまねて商業利用する行為はパッシングオフ(詐称通用)に当たると考えられる。イギリスでは、パッシングオフは商品などの評判を傷つけ、経済的損害をもたらす不法行為と見なされ、アメリカでもこうした行為はランハム法で禁止されている。
スウィフトは偽ポルノ画像の拡散など、陰湿なディープフェイクの被害にも遭ってきた。前回の米大統領選前には、スウィフトからの批判にいら立ったドナルド・トランプが、支持者の作成したAI画像(スウィフトと彼女のファンがトランプ支持にくら替えしたように見せかけたもの)を共有し、物議を醸した。
アメリカでは露骨なディープフェイクを規制する「テイク・イット・ダウン法」が昨年5月に成立。イギリスでも昨年6月成立の「データ(利用およびアクセス)法」に同様の内容が盛り込まれた。
スウィフトは自身のアイデンティティーを守る手段を強化しようと商標登録を出願したとみられる。商標登録をしておけば、AIが生成した不快なコンテンツを拡散されたときに法的措置を取りやすくなる可能性があるからだ。
商標登録で守られるのは保護の対象として申請した画像や音声などに限られるが、プラットフォームに違法コンテンツの削除を求めると、多くの場合IP登録の証明を求められ、商標登録はその際の有力な根拠となる。そのため、少なくともAIを使った成り済まし行為を防ぐ強力な抑止策になり得る。
多くのアーティストを悩ませる、さらに厄介な問題もある。AIが既存の作品をデータとして利用して新しいコンテンツを生成することだ。例えば、アルバム『フィアレス』をリリースした頃のスウィフトのスタイルをまねた楽曲をAIに作らせ、それを別の歌手そっくりの声で歌わせることも可能だ。
そうした行為にどうやって歯止めをかけるのか。AIは膨大な数の楽曲や歌唱を合成するから、特定のIPを無断で使用されたことを立証するのは非常に難しい。
一方、AIが既存のIPの「採掘」を通じて新たなコンテンツを生み出すことは実に簡単。ソングライターには著作人格権があり、その作品を無断で改変することは禁止されているが、現状では野放し状態だ。ミュージシャンやソングライターは、自分たちに十分な対価が支払われないばかりか、AIの楽曲使用について許諾すら求められない状況に懸念を募らせている。
イギリスでは、音楽家組合がAIによるIPの無断利用に抗議の声を上げ始めた。英政府は著作権法で保護された作品であっても、AIの学習用の使用は例外的に認める方針を取っていたが、音楽業界の猛反発を受けて、クリエーター側の管理権を拡大する方向に舵を切った。
イギリスの音楽関連の著作権管理団体であるパフォーミング権利協会は、AIのみで生成された作品は登録対象としないと宣言している。ただし、AIを補助的に使って制作した作品については登録を認めるという立場だ。そうなると、人間がどの程度手を加えたら著作権保護の対象となるのかが問題になる。
現時点では、AIのIP利用にはグレーゾーンが多く、いわば無法の荒野のようなもの。スウィフトは保安官バッジの代わりに商標登録を申請し、アーティストの権利を守る闘いに乗り出した。
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Justin Morey, Senior Lecturer in Music Production, Leeds Beckett University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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