Rami Ayyub Maayan Lubell
[エルサレム 15日 ロイター] - イスラエル史上最長の在任期間を誇るネタニヤフ首相の算段では、トランプ米大統領と共闘することでイランの聖職者支配を打破し、中東を再編する米・イスラエル同盟の設計者として、国内の選挙を前に自身の立場を強化できるはずだった。
ところがネタニヤフ氏は、戦争からの離脱を模索するトランプ氏と衝突する危機に瀕している。結局両氏とも目的は達成されず、イスラエルの軍事作戦はレバノンで膠着状態にある。
今のところイスラエル政府当局者は、最も重要な同盟者ながら批判にすぐ神経とがらせることで有名なトランプ氏を怒らせることを恐れ、公式の場では慎重な言動に終始している。
ただ非公式な会話からはトランプ氏の不満がはっきりと読み取れる。イスラエル政府高官の1人は「(米・イランの)暫定合意はイスラエルにとって最悪だ。首相から参謀総長に至るまでイスラエル指導部の中に、これ以外の見方をしている者は一人もいない」と言い切った。
米政府は、停戦が実施される今後60日間で、イランの核開発計画を中心に米・イスラエル双方の懸念に対処する完全な条件を交渉すると説明している。
しかし複数のイスラエル当局者はロイターに、この合意に基づく交渉期間は延長される公算が大きく、懸念が未解決のままイスラエルの軍事行動が封じられるのではないかと危ぶんでいると語った。
ネタニヤフ氏とトランプ氏は、レバノンにおける親イラン民兵組織ヒズボラに対する追加攻撃を抑制することをイスラエルが拒否している問題を巡り、繰り返し衝突してきた。イラン側にとっては、このレバノンにおける敵対行為の停止が重要な要求事項だ。
トランプ氏は今月初め、怒りに満ちた電話会談の中でネタニヤフ氏を「狂っている」と評し、米国がイランとの合意を模索している間はベイルートを攻撃しないよう改めて念を押した。
だがネタニヤフ氏はその日こそ攻撃を中止したものの、1週間後にはベイルート南郊を爆撃。これがイランによるイスラエルへのミサイル攻撃を誘発し、トランプ氏が双方を公に非難する事態を招いた。
14日の米国とイランが暫定合意を発表する数時間前にレバノンからイスラエルに向けてロケット弾が発射されたことを受け、イスラエルは再びレバノンの首都を攻撃した。トランプ氏はこの攻撃については「小さく、無意味なもの」と片付けた。
一方ネタニヤフ氏は15日の会見で、自身とトランプ氏との間に時折意見の相違があったことを認めて「彼は米国の大統領であり、私はイスラエル首相だ。意見が一致することもあれば、そうでないこともある。私はイスラエルの安全保障上の利益に責任を負っている」と語った。
ただイスラエルで秋に予定される国政選挙で敗北が予想されているネタニヤフ氏にとって、世論調査で米大統領のイスラエルの安全保障への関与に懐疑的になりつつある国民の支持を得る上で、トランプ氏に背くことがやむを得ない選択となるのかもしれない。
オバマ政権下で駐イスラエル米大使を務め、現在は米シンクタンクの大西洋評議会に所属するダン・シャピロ氏は「これは利害の相違がかなり鮮明になった瞬間だ。ネタニヤフ氏はトランプ氏とのけんかを避けるため、公然と(合意に)反対することはしないだろう。しかしイスラエルはその合意に拘束されず、自らの権利を留保するという姿勢を示すはずだ」との見方を示した。
<行動の自由を主張>
米国とイランは戦闘終結に向けた覚書の正式な調印式を19日にスイスで開催する予定だ。正確な条件はすぐには明らかにならなかったが、仲介国パキスタンは、この合意がレバノンを含むすべての戦線での軍事作戦の恒久的な停止を求めていると述べた。
しかしネタニヤフ氏は、イスラエル軍はレバノン南部にとどまり、ヒズボラの攻撃に対して「行動の自由」を維持すると主張。「イランはわれわれに撤退を望んだが、私は断固として拒否した。われわれは行動の自由を維持し、イスラエル北部の市民を守るための安全保障地帯を維持する」と記者団に明言した。
米・イランの最終合意に向けた60日間の交渉議題には、戦争開始当初にネタニヤフ氏とトランプ氏がともに大義として掲げていたホルムズ海峡開放とイラン核開発問題の解決以外の2つの課題、つまりイランのミサイル計画の抑制と、地域の武装組織への支援の中止は、含まれていないと考えられている。
イスラエル当局者3人は、60日間の合意が90日間に延長される可能性が非常に高いとイスラエルは見ており、その間、米国はより包括的な合意の交渉を進めながら地域への軍備の展開を維持するとの見方を示した。
これに対して別の2人のイスラエル当局者は、先週トランプ氏がイランとの合意が近いと初めて述べた際、イスラエルは不意を突かれたと打ち明けた上で、イスラエルが交渉に影響を与えることにほとんど成功していないことを認めた。
<失われたアピールポイント>
米民主党のオバマ政権やバイデン政権下でしばしば米国と衝突してきたネタニヤフ氏は、共和党のトランプ氏を扱うことに長けている唯一の人物だ、と長年イスラエル国民にアピールしてきた。
確かにトランプ氏の1期目に、イスラエルは米国の大きな政策転換、具体的には米国大使館のエルサレム移転や、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンとの外交関係樹立をもたらした「アブラハム合意」の支持などを引き出した。イランに関しては、トランプ氏はオバマ政権下で交渉され、イスラエルが長年「甘過ぎる」と不満を述べてきた2015年の核合意を破棄した。
<停戦合意はネタニヤフ氏に向かい風>
ネタニヤフ氏は19年の選挙期間中には、テルアビブやエルサレムに自身とトランプ氏が笑顔で握手する巨大な選挙ポスターも掲示した。
ただテルアビブ近郊のバル=イラン大学の政治学者ジョナサン・ラインホールド氏は、今回の米・イラン合意は、トランプ氏との緊密な関係がイスラエルにおける他の首相候補との差別化要因だというネタニヤフ氏の主張を台無しにしていると指摘する。
ラインホールド氏は「(ネタニヤフ氏は)この合意をイスラエル国民に売り込むことはできないだろう。彼が望める最善のシナリオは交渉が決裂し、60日後にイスラエルに有利な形で戦争が再開されることだ」と述べた。
イスラエル民主主義研究所が12日に発表した世論調査によると、トランプ氏が自分たちの安全保障を最優先事項と考えていると答えたユダヤ系イスラエル人はわずか41%で、3月の64%から低下した。
こうした中でネタニヤフ政権のコーエン・エネルギー相は、トランプ氏の任期中にそうなる確率は低いとしつつも、イランが核やミサイルの開発能力を再構築すれば、イスラエルは単独で行動する用意があると強調した。
コーエン氏は「もしイランが核や弾道ミサイル計画を再開しようとするなら、われわれはそこに立ちふさがり、行動を起こすだろう」と公共放送KANに語った。