Laurie Chen
[北京 10日 ロイター] - 中国東南部の杭州に住む大手ネット企業の契約社員リュウさん(26)は、雇用主が3月から静かに契約社員の解雇を始めたと話す。今年中国で急速に普及したオープンソース型人工知能(AI)エージェントの「オープンクロー」を含むAIツールの使用が広く社内で奨励され始めた後のことだ。
「ほとんどの人の業務は、完全にオープンクローに置き換えられる。自分の作業フローを全て(オープンクローに)書き込んでしまえば、その人は基本的に解雇されることになる」と明かす。
リュウさんは解雇の全容までは把握していない。ただ中国企業がAIシステムの導入を競う中で、会社は新卒採用の削減も開始している。
世界中の企業がAIの導入に苦慮しているが、中国企業は独自の課題に直面している。中国政府は生産性向上に向けて企業が迅速にAIを導入することを望んでいるものの、社会の安定を脅かすほどの規模の解雇が発生することは求めていない。
ロイターは、テクノロジー、エンターテインメント、広告など多岐にわたる業界の働き手9人に取材した。リュウさんの会社は、AIによる生産性向上を図りつつ、政府の監視を避けるために小規模な解雇を密かに始めた中国企業の1つだ。
こうした戦略は、米メタ・プラットフォームズなどのグローバル大企業が発表した大規模なAI関連のポスト削減とは対照的だ。欧米ではそうした大々的な人員削減が反AIのポピュリズムの波を引き起こしている。
<大規模レイオフを避ける企業>
中国の労働法では、従業員の10%を超える人員削減を行う場合、企業は政府の承認を得る必要がある。労働者をAIに置き換えるために解雇した事案について、中国の裁判所は少なくとも3件で企業側に不利な判決を下している。
中国の大手フィンテック企業の幹部はロイターに「民間企業は『社会的不安定』を招き政治的な波及効果をもたらす可能性のある大規模レイオフを避けるため、ある程度の非効率性を受け入れる余地を作る必要があるだろう」と語った。
同幹部の話では、中国のあらゆる大手テック企業では既に再編が起きており、マーケティングやフロントエンドの職務は大部分がAIに置き換わっている。
アリババグループのクラウド部門のエンジニアも、AIによる人員削減が社内の一部で始まっていると話す。一度に大規模なレイオフを行うのではなく、段階的な削減や自然減を通じて進む可能性が高いという。
アリババはロイターのコメント要請に応じなかった。
コンサルタント会社プレナムのシニアアナリスト、ヒ・シュージン氏は、中国の大手テック企業は依然としてAIへの「全力投入段階」にあると指摘。「AIによる生産性向上は、採用ニーズを減少させる公算が大きい。ただし大企業は直接的な人員削減については慎重になると予想される」との見方を示した。
<AIパフォーマンス目標>
一部の企業は業務や役割をAIに置き換えるだけでなく、労働者が十分なスピードでAIを導入しているかどうかを測っている。効率性を推定するために、AIの計算リソースの消費単位である「トークン」の従業員による使用量が調査されている職場もある。ただそれが直接的な生産性向上につながったり、AIを使って作成された仕事の質を示したりするわけではない。
中国のテック大手で働くビッグデータ・エンジニアの上司は、3月からトークン使用量で従業員をランク付けし始めたという。この指標がパフォーマンス評価や昇進の見通しに関連付けられる。
このエンジニアはロイターに「比較的強制力のある措置だ。AIを使うこと自体が目的になってはいけない。自分が置き換えられる日が近づいているという感覚がぬぐえない」と漏らした。
エンターテインメントは最も影響が大きい業界の1つだ。低予算の短編ドラマ制作スタジオは、AIが生成した俳優やセットへと移行している。
2月に解雇された短編ドラマプロデューサーの女性(22)は「制作部門には30-40人いたが、(AIへの)移行後、各グループは約10人に削減され、実写撮影に残ったのはわずか2人だった」と話す。
さらに「実写の場合、たとえ数行のせりふしかない端役でも1人の俳優に1日当たり数千元かかる」と説明した。
<AIブームと雇用の圧迫>
中国政府の「AIプラス」と呼ばれる取り組みは、来年までに主要セクターで70%、2030年までに90%のAI導入を目標としており、アナリストは困難な移行期間が訪れると警告している。
AIによる雇用創出のスピードが、職が失なわれるスピードを下回っている上、既に若者の高い失業率に苦しんでいる中国では、キャリアの浅い若手労働者がAIを通じた自動化の影響を不当に受けやすい状況にあるという。
昨年AI関連の求人は74%急増したが、そのブームの裏には1270万人に上る記録的な大学卒業生が初任給の低下と求人減少に直面するという、より広範な市場の苦境が隠されている。
シティバンクは最近のレポートで、中国の全雇用の9.6%(約7000万人)がAIによる置き換えの高いリスクにさらされていると推定。20代の労働者ではそのリスクは13.6%にまで上昇する。
アドバイザリー会社チャイナ・ポリシーの社会政策アナリスト、セレナ・グオ氏は「AIは独特な形で中国の(経済的)移行の中心に位置している。それは混乱を生むと同時に、混乱の解決策でもある。産業効率を達成し、イノベーションを加速させるためには、広範なAI導入が必要だ。期待されているのは、生産性と成長に対する前向きなスノーボール効果(雪だるま式の押し上げ効果)だ」と述べた。
中国の国営メディアの記事は、AIが「人々の飯の種を奪う」ものではないと報じて労働者を安心させようとしている。当局は現在、AIが雇用に与える影響やリスキリング(学び直し)計画を検討中だが、詳細な政策対応はまだ示されていない。
SNSの「小紅書」ではハッシュタグ「AI不安」が780万回を超える閲覧数を記録し、19世紀に力織機によって職を失った欧州の織物職人のように、AIによって自分たちが時代遅れになるのではないかという議論が交わされている。
一部のAIエージェントツールは、既に部門全体を置き換えることを明確にうたって販売されている。例えばアリババの企業向けプラットフォーム「悟空」は、電子商取引(EC)販売、ライブストリーミング、ソフトウエア開発などの業務を自動化するために設計された、あらかじめ設定済みの「一人会社」スキルを備える。
前出のリュウさんは「AIを使わない者は排除されるだろう。AIが生活のあらゆる側面に浸透するのは時間の問題だ。私は農業に戻るか、職人になりたいと思っている」と語った。