Rajesh Kumar Singh
[リオデジャネイロ 9日 ロイター] - 世界中の航空会社が高価格帯の乗客を引きつけようと力を入れる状況で、高速の機内Wi―Fiがますます重要な特典となっている。かつてはつながりにくく有料だったサービスがイーロン・マスク氏の率いるスターリンクと、ジェフ・ベゾス氏が率いる低軌道(LEO)衛星ネットワーク「アマゾン・レオ」の主戦場となりつつある。
航空インテリジェンス企業のバロー・コンサルタンシーによると、スターリンクは宇宙にある全衛星の約3分の2を運用し、マスク氏の宇宙企業スペースXの主要な収益源となっている。契約社数は2022年の3社から24年に8社、25年に22社となった後、26年に入って既に11社の航空会社と契約を結んだ。
アマゾンはLEO衛星群をまだ構築中で、5月のブルー・オリジンのロケット打ち上げ失敗の影響で後退の可能性に直面している。アマゾンは最初の顧客としてデルタ航空、ジェットブルー航空と契約を確保していた。
旅行テクノロジー大手アマデウスのトラベル部門社長、デシウス・バルモルビダ氏によると、スターリンクやアマゾンの衛星ブロードバンドの導入は大規模な保有機数を抱える航空会社にとって数億ドル規模の巨額投資となる。しかし、航空各社は利益率を高めるために高価格帯商品に対する依存度を高めており、今後数年間でさらに投資を拡大していく可能性が高いという。
ブロードバンド分析会社ウークラによると、スターリンクはこれまでの大きくて速度の遅い静止衛星ではなく、数千基のLEO衛星を使用しており、旧式のシステムよりも数倍高速だ。
サウスウェスト航空は「市場投入のスピード」を理由にスターリンクを選んだと述べたが、業界最高峰のWi―Fi導入を目指しておりアマゾン・レオの採用も排除していない。
アメリカン航空は5月後半、27年初めから500機以上の単通路機にスターリンクを搭載する計画を発表した。
<ライアンエアー、コスト理由にスターリンク排除>
しかし、航空会社が全て納得しているわけではない。ライアンエアーのマイケル・オライリー最高経営責任者(CEO)は導入コストとアンテナ設置による燃料消費を理由にスターリンクの採用を排除し、これがマスク氏との激しい論争を引き起こした。
米投資銀行ジェフェリーズの投資アナリストの試算によると、アメリカン航空が発表したスターリンクの導入計画は機器と設置にかかるコストが1億5000万ドル(約240億6022万円)から2億5000万ドルに達し、さらに毎年6000万ドルを超える年間サービス利用料が発生する可能性がある。ロイターはアマゾン・レオについて同様の公の試算データを確認できなかった。
<マスク氏対ベゾス氏>
バロー・コンサルタンシーのシニア・コンサルタント、ダニエル・ウェルチ氏によると、スペースXは現在世界中で7000機以上の航空機とスターリンクの契約を結んでおり「圧倒的な」トップの地位を固めている。
専門家は、プロバイダーの切り替えはコストが高いため、スターリンクの初期リードは重要だと指摘した。
スペースXが過去最大の新規株式公開(IPO)を目前に控えた今、投資家の視線は消費者向けブロードバンドを超えたスターリンクの事業拡大に集中している。IPO目論見書によると、25年のスペースXの総売上高186億7000万ドルのうち、スターリンクは114億ドルを占めて同社の最大の収入源となっている。
スターリンクが通信速度とアンテナ設置の簡便さを強調しているのに対して、アマゾンはクラウドコンピューティングや娯楽、物販との連携を含むより広範な技術エコシステムを売り込んでいる。
デルタ航空がアマゾン・レオを選択したことに、その違いがよく表れている。デルタ航空は既に構築しているアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)との提携関係に基づいて、28年から500機の航空機にレオを搭載することを選んだ。
一方でビアサット、インテルサット、パナソニック・アビオニクス、ヒューズといった従来の機内Wi―Fiプロバイダーも依然として多くの航空機に組み込まれている。これらの企業は複数の軌道を組み合わせたバックアッププランを提供しているほか、スターリンクやアマゾン・レオが規制上の障壁に直面している市場でもサービスを展開できる点が強みとなっている。
<高速Wi―Fi、航空会社の副次的収益を拡大>
航空会社にとって機内Wi―Fiの高速化は、乗客を自社のロイヤルティプログラムに呼び寄せて旅行後もフライト、座席のアップグレード、提携クレジットカード契約を売り込む手段ともなる。
サウスウェスト航空はスターリンクを搭載した最初の機体が今月末までに運航を開始する予定だ。26年末までに300機以上の機体をスターリンク仕様に改修する目標を掲げているが、経営陣はスターリンク側がどれだけ早く機器を供給できるかどうかにかかっていると述べた。
サウスウェスト航空のボブ・ジョーダンCEOは「乗客が他の航空会社を予約したり他の航空会社で移動したりしなければならないと感じる理由をできるだけ少なくしたい」と語った。
デルタ航空は23年に無料Wi―Fiを導入して以来、1億6300万人以上の「スカイマイル」会員がこのサービスを利用したと発表しており、機内接続を中心に航空会社が構築している乗客向けサービス規模の大きさを示している。
ユナイテッド航空は「マイレージプラス」会員向けに提供している無料のスターリンクWi―Fiが現時点で1日の全運航便の25パーセント以上で利用できると明らかにした。27年末までに保有する全ての航空機体に導入を完了させる計画だ。スコット・カービーCEOは「スターリンクの超高速無料Wi―Fiは、他のすべての航空会社に対して圧倒的に優位な要因になる」と述べた。