今年『水車小屋のネネ』は文庫になった。文庫解説は挿画や表紙の絵を描いた北澤平祐さんとあり、驚くことに姉妹の絵が並んだのだ。新聞連載小説は毎日の挿画がある。昨年挿画集が出た時に、絵に添えられたコメントがライナーノーツのようで感激した先の、単行本を読み終えて以来、三たびの喜びだった。

翌年2025年は編集者の白石正明さんをお招きして、社会福祉施設「よりあい」の代表の村瀬孝生さんとトークイベントをしていただいた。医学書院の<シリーズケアをひらく>を作ってきた編集者。

本屋として「こんな本を売りたかった」読者としてもこんな本を読みたかった、知りたかったと思う本を次々と生み出してきた名編集者と『シンクロと自由』(医学書院)や『ぼけてもいいよ』(西日本新聞社)などの名文を書いてきた介護のベテランの対話は縁側に座るふたりの話を聞くようで、心地よい時間だった。

白石正明『ケアと編集』(岩波新書)はあらゆるところに大事なことが書いてあるのだけれど何がどう大事か一言で表せないところが本当にいい。

ケアで生じる問題に対して「治す」「克服する」という方向とは別の光を与えることが、編集という仕事に似ていると白石さんは感じていて、編集してきた数々の本の執筆者との対話や仕事の中でケアと編集の接点が、すこしずつ繰り出されていく。

白石さん自身の体の話から徐々に伸びて社会へと広がって個人のつながりへと戻り、最後は自身の編集業に還っていく。村瀬さんのお話も介護の仕事からお母さんのことへと巡り、お二人はずっと真剣なユーモアを携えていた。

お客様の中に写真家の繫延あづささんがいた。「助産雑誌」の表紙の写真を見るたび目が釘付けになる。あの写真の繫延さんだ。『ニワトリと卵と、息子の思春期』(婦人之友社)で、ご長男が卵を売ってゲーム代を貯めようとニワトリを飼い始める話が、淡々と描かれていて本当に好きな文章だった。

なんでも受け入れる肝っ玉母ちゃんの印象だったので、どんな方だろうと受付でお待ちしていたら、一瞬同業者(書店員)かと思うほど、おとなしい雰囲気の方だった。イベントから約半年が過ぎて、会場に来ていた朝日新聞の記者が繫延さんを取材し、家族とともに流れていく時間を切り取ったとてもいい記事が載っていた。

同じ時期に『鶏まみれ』(亜紀書房)が出版されたので、むさぼるように読んだ。ニワトリを飼い始めた時に「名前はつけない。ペットじゃないから」と言い放った長男が高校生になり、とても頼りになることを折にふれて言う。次男の溌溂として思慮深い発言にも励まされる。娘さんの家族みんなに全力で愛されている姿もいとおしい。

失業した夫の「養鶏家になって、卵売ろうかな」の一言に「ちょっと考えさせて」と答えた後、繫延さんは食鳥処理場で働きだした。職場での日々を、機微に触れながらいつもの通り静かに描いていた。