<33年ぶりの協議の先にある深い溝。レバノンがイスラエルとの国交正常化交渉に慎重な理由について>
今年4月、ワシントンでイスラエルとレバノンの代表が向き合った。1948年のイスラエル建国以来、何度も戦火を交え、今も国交を持たない両国による高官レベルの直接協議は33年ぶりとなる。
アメリカとイスラエルはこの協議を「歴史的」と称賛。イスラエルのネタニヤフ首相はレバノンとの和平合意に向けた好機と主張し、トランプ米大統領も「素晴らしいチャンスだ」と喧伝した。
だが、現実はそれほど単純ではない。トランプはネタニヤフとレバノンのアウン大統領による首脳会談に意欲を示すが、レバノン側に同じ熱量はなく、アウンは国内の反発を警戒し、「適切なタイミングではない」と慎重な姿勢を崩さない。
そもそも、イスラエルと交戦状態にある当事者はレバノンの国家ではなく、イランの支援を受けるイスラム教シーア派組織ヒズボラだ。5月には、イスラエルとレバノンが45日間の停戦延長で合意したが、その間も断続的に攻撃が続くなど戦闘を止める力にはなっていない。
レバノンはマロン派を中心とするキリスト教徒、イスラム教スンニ派、シーア派、ドゥルーズ派が共存する「モザイク国家」だ。大統領はマロン派キリスト教徒、首相はスンニ派、国会議長はシーア派が務める宗派制度が43年から続いている。このうち、シーア派社会に深く根を張る政治勢力のヒズボラは、国軍をしのぐ軍事力を持つ。
ただ、ヒズボラの活動が国内で広く支持されているわけではない。シーア派住民の約8割が活動を支持する一方で、ドゥルーズ派、スンニ派、キリスト教徒からは強い警戒と反発が向けられてきた。近年の調査でも、ヒズボラの軍事力を制限すべきだという声は、こうした層で目立つ。