Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 20日 ロイター] - 高市早苗首相は6月の金融政策決定会合に向け、日銀との難しい対話を求められそうだ。 ベセント米財務長官が政策金利引き上げへの期待感を示したことで利上げ観測が高まる一方、長期化する中東情勢の悪化による物価高が高市氏を補正予算編成へと駆り立てている。金融引き締めと財政出動という相反する2枚のカードを前に政府内の針路は定まらず、専門家の見方も分かれている。

<秘密保持が徹底される12日の会談>

「植田氏は優れた中央銀行総裁だ。必要なことを行う余地が与えられれば、優れた金融政策を実現すると確信している」。ベセント氏は訪問先のフランスで19日、ロイターとの単独インタビューに応じ、こう語った。かねてから「日銀に利上げを求める考えを持ち続けている」(日本政府関係者)とされるベセント氏のこうした発言は、改めて早期利上げを植田氏に求めたものだと受け止められている。

布石はあった。今月11日に来日したベセント氏は翌12日、首相官邸で高市氏と会談。内容は秘密保持が徹底されているが、直後から政府関係者の間には「ベセント氏が直接的に高市氏に利上げを要求した」との見方が広がった。事実であれば、これまで利上げに対して後ろ向きだとされてきた高市氏の姿勢に変化が生まれるきっかけにもなり得る。

木原稔官房長官は20日午前の記者会見で「議論の具体的な内容は外交上のやり取りそのものなのでコメントは差し控える」と述べた。事情に詳しい政府関係者は、植田氏が利上げの必要性を感じているとの認識を示した上で、ベセント氏の発言は「日銀にとっては渡りに船だ」と語った。

<先行き不透明な政府の財政政策>

日銀の利上げ観測が高まる中、高市氏は18日、物価高に対応するため補正予算の編成も含めた「手当て」の検討を表明した。実質的な補正編成指示だ。すでに講じているガソリン補助の継続や、夏場の電気・ガス代の補助復活が主な項目になる見通しだが、財源には特例公債(赤字国債)の発行が避けられない情勢で、債券市場では金利が大きく上昇した。

前出とは別の政府関係者は、現状の物価高への対応を続ける限りは財源の枯渇が目に見えているとし、補正予算の編成自体は不可避だと言う。その上で、「中身の問題だ。無尽蔵なガソリン補助や恒例行事のようになっている電気・ガス代の補助に大きな財源を投じることに市場は反応している」とジレンマを口にした。

自民党の萩生田光一幹事長代行は18日の記者会見で、ガソリン補助額の見直しを含め、持続可能性に目配りした財政運営の必要性に言及した。ただ、それが高市政権の方針にどこまで反映されるかは見通せない。「最後は高市氏の判断に尽きる。いまの時点で政府の財政政策がどこに向かうのか、だれにも分からない」と、事情に詳しい関係者は付け加えた。

<利上げの可能性、分かれる専門家の意見>

農林中金総合研究所の南武志・理事研究員は、日銀の増一行・審議委員が14日の講演で早期利上げを主張したことに言及した上で、「日銀は企業物価や消費者物価を見ながら、6月利上げに向けて地ならしをしている」と指摘する。一方、「6月に利上げしてもおかしくないが、高市政権が補正予算を組む可能性がある時に果たして利上げに踏み切れるのか」と疑問視する。

東短リサーチなどが算出する6月会合の利上げ確率は、20日午前時点で79%台まで上昇した。日銀が前回政策金利を0.75%まで引き上げた1月会合は、事前に高市政権が容認姿勢に傾いたことが複数の関係者の取材で明らかになっている。

野村総研の木内登英・エグゼクティブ・エコノミストは、「6月利上げの確率は半々だ。あえていえば見送りの可能性が少し高い」と見る。現在の日銀は、政府からの利上げけん制圧力を受ける執行部と、政府との接点を絶たれることから基本的に金融政策の正常化を志向する審議委員の間にギャップがあると指摘。「9人の日銀政策委員会メンバーのうち、現時点で4人は6月利上げに賛成すると推察される」とし、「これに植田総裁が同調し、仮に政府が反対しても利上げを決行する可能性がある」とも語る。

木原官房長官は20日の会見で日銀の利上げの可否について問われ、直接的な言及を避けつつこう述べた。「日銀には引き続き政府と密接に連携を図り、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、コストプッシュではなく賃金上昇も伴った2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に適切な政策運営を行うことを期待している」

(鬼原民幸、竹本能文 取材協力:山崎牧子、梶本哲史 編集:久保信博)

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