Howard Schneider

[ワシントン 18日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)はホワイトハウスとの計8年間にわたる摩擦や、世界的な感染症の大流行、そしてインフレとの闘いを経て、ケビン・ウォーシュ元理事がまもなく議長に就任することで新たな時代を迎える。

同時にトランプ大統領にとっても、新時代の幕開けになるだろう。退任するパウエル議長を批判の標的にすることはできなくなる。

ウォーシュ氏は、ホワイトハウスとFRBの関係にいわば「仕切り直し」をもたらすだろう。

2016年、パウエル氏はFRB理事としての最初の任期に就いて数カ月しかたっていなかったが、トランプ氏はFRBの利上げに苛立ち、パウエル氏の非難を始めた。現在トランプ氏は利下げを求めているが、ウォーシュ氏もまた、インフレ上振れリスクや他のFRB高官のタカ派的な見通しにより、大統領を失望させる可能性がある。

投資家らは現時点で、ウォーシュ氏が早ければ来年1月にも利上げを行わざるを得ない状況にあると見込んでいる。

ウォーシュ氏の新体制でFRBが始動するのに際して、重要な問題の現状は次の通りだ。

◎インフレ

トランプ氏は大統領就任当初から物価が下がると約束したが、物価指標はそれが実現していないことを示している。輸入関税の持続的な影響、米・イスラエルによるイラン攻撃による原油急騰、投資と消費の旺盛な意欲が続く中で、ウォーシュ氏は物価上昇率がFRBの目指す2%の目標をさらに上回って推移している時期に就任する形となる。複数のFRB理事からは、物価上昇圧力が強まっていることへの懸念も表明されている。

パウエル議長の在任中は、歴代議長に比べて平均物価上昇率が高かった。しかも最近では、ある程度進展していたディスインフレ傾向が、関税引き上げとエネルギーコスト上昇という二重のショックを受けて反転してしまった。

◎失業率

FRBの使命は物価安定とともに、政策を通じて雇用を強力に維持することだが、これら2つは場合によって矛盾する。物価上昇のためにFRBが政策を引き締め、雇用創出をリスクにさらす必要が生じる局面もあれば、高い失業率の結果として利下げが求められ、経済の過熱を招くリスクが生じることもある。FRBは、今がそのような緊張の瞬間であるかどうかを判断しようとしている。

しかしこれまでのところ物価上昇を抑制する必要はあるものの、失業率は4.3%と安定しており、歴史的水準から見ればかなり低い。

利下げ推進派は、労働市場が見た目よりも脆弱で、失業者が急増する実質的なリスクがあると主張してきた。しかし最近、政策担当者らは、物価上昇についてより強い懸念を示している。

◎バランスシート

FRBのバランスシートは、独特の経済的産物と言える。それには国の金保有量が含まれ、銀行に積み上げられたり、自宅に退蔵されたりしている全ての現金が計上される。しかし現在の6兆7000億ドルの資産とそれに対応する負債の大部分は、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の形をとっており、二重の目的を果たしている。

巨額のバランスシートは事実上、国債やMBSと引き換えに経済に注入されたFRBの資金を象徴している。これらは、新型コロナウイルスの世界的大流行のような危機を米経済が乗り切るのを助けるために蓄積された。現在は、短期金利をコントロールするFRBの金融調節手段の一部として保持されている。

ウォーシュ氏は、巨額のバランスシートを縮小するために、さまざまな規制や政策の変更を模索すると予想されている。それは短期的には進展が限られるような長期にわたる議論につながる可能性がある。ウォーシュ氏は、広範な「体制転換」を実現する自身の能力に自信を表明しているだけに、FRBウォッチャーは、ウォーシュ氏の手腕を判断する尺度の1つとしてバランスシートの規模に目を向けるだろう。

それが成功するかどうかは、米財務省の債務発行スケジュールや、海外投資家が、バランスシート縮小に向けたウォーシュ氏の改革措置にどう反応するかといった要因に左右される。消費者が住宅ローンやその他のローンで支払う金利の基準となる長期米国債利回り(長期金利)は既に上昇しており、FRBのバランスシート縮小はさらなる上昇圧力を加えかねない。

◎政策金利

FRBは昨年12月以来、政策金利を据え置いており、連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーはおおむね現在の3.5-3.75%という水準が適切だと考えている。これは依然としてわずかに「引き締め的」、つまり物価に下押し圧力をかけ、全体的な需要を抑制するが、失業率の急増を招くほどではないと考えられている。また政策担当者は、労働市場を安定させるレベルまで、必要に応じて現在の金利を迅速に引き下げることができると感じている。

ウォーシュ氏の同僚の中には、既に物価高にしびれを切らし、FOMCの声明を利用して利下げではなく利上げが近づいている可能性を示唆したいと考えている向きもある。

ただそうした決定はウォーシュ氏にとって即座の試練を生む。ウォーシュ氏が初めて参加する6月FOMCにおいて、トランプ氏に対する言葉の上でのタカ派的な転換を突きつけることになるからだ。

しかしウォーシュ氏の下でFRB内の今後の議論は広範なものとなり、解決にたどり着くのは時間がかかるだろう。その議論には、労働市場や生産性に対する人工知能(AI)の影響や、高齢化およびトランプ政権下で激減した移民によって制約されている労働市場の構造変化などが含まれる。

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