離れゆくアメリカとヨーロッパ
欧米間もイラン戦争で不和が加速している。この数十年間の「常識」と裏腹に、欧米同盟は当然の帰結ではない。アメリカは孤立主義と保護主義の歴史が長い。いい例が、1920年に成立した国際連盟への不参加だ。この決断がアドルフ・ヒトラーの台頭と2度目の大戦につながった。より最近では、2009年のオバマ政権時代に米ロ関係のリセットを優先し、東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備計画を犠牲にしたこともある。
だがトランプ米大統領の場合、レベルが違う。欧州に対して露骨に敵対的な姿勢を打ち出し、グリーンランド併合やアメリカのNATO脱退をちらつかせている。
イラン戦争は欧州にとって、防衛能力強化や自律性確保を急ぐ新たな動機になっている。トランプは、独断で軍事行動に踏み切ったにもかかわらず、ホルムズ海峡の船舶航行再開に向けた作戦などへの協力を欧州に要求。拒否された後、米国防総省はドイツ駐留米軍の5000人削減を発表した。
欧州だけではない。途上国はトランプ政権の関税措置や開発援助停止に見舞われ、今やイラン戦争の影響に直撃されている。
アメリカが引き起こした混乱の中、安定の担い手として巧みに自国を位置付けているのが中国だ。おかげで、ほぼ代償なしに国際社会で存在感を強めている。確実な貿易パートナーを求めて、欧州の多くの指導者が訪中しているが、中国はウクライナ問題や人権問題、過剰生産、反ダンピング(不当廉売)関税について譲歩していない。
5月14~15日には、北京で米中首脳会談が開かれた。貿易摩擦の緩和やイラン戦争などの重要問題での協力につながるとみられたが、具体的な成果はなかった。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がゼロサム外交に終始するなら、敗者になるのは世界全体だ。
シュロモ・ベンアミ
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。