「狂人戦略」の有効性は?
これまでの米中首脳会談の展開を見る限り、トランプが好む「狂人」戦術の限界を示しているように思える。
「狂人理論」についての著作があり、国防情報局の上級分析官を務めた経験もあるペンシルベニア州立大学のローザンヌ・マクマナス教授(政治学・国際関係学)は本誌に対し「トランプの『狂人戦略』は、彼が何をするかを予測しにくくする……それは敵対者を緊張状態に置くうえで一定の効用を持つかもしれないが、交渉と協力に必要な信頼と予測可能性を損なう可能性もある」と指摘する。
「習は、トランプが首脳会談で求めるものが、6カ月後にも彼にとって優先事項であり続けるとは信じていないかもしれない……1つの問題で譲歩しても、トランプが近い将来にまったく新しい要求を持ち出すことは防げないと考えている可能性もある」
「狂人戦略」に関するトランプ自身の実績はまちまちである。ベネズエラやイランでは恐怖を植え付けられたかもしれない。しかし、イラン戦争はトランプの思惑を離れて拡大し、イランによるホルムズ海峡への締め付けで世界のエネルギー市場が混乱に陥るなど、新たな問題をもたらしている。
第1次政権期には、北朝鮮に向けられた核をちらつかせる「炎と怒り」の威嚇によって、金正恩最高指導者との歴史的な首脳会談を実現した。しかし最後には相互不信が勝り、双方は合意のないまま帰路についた。その後も外交上の突破口は開かれていない。
歴史上のほかの「狂人」たちにとっても、成功は一時的なものにとどまってきた。
マクマナスは、冷戦初期の対立の一つである1958年のベルリン危機において、アメリカが最終的にソ連首相ニキータ・フルシチョフの核による威嚇に逆らったことを振り返った。イラクのサダム・フセインやリビアのムアンマル・カダフィのような者たちは、その虚勢がさらに致命的な形で裏目に出た。
マクマナスは「アメリカ自体は、そのような外国の軍事介入に対して脆弱ではない。しかし、『狂人戦略』を堅持すると、トランプが信頼を築き、持続的な合意を確保する能力を損ない得る」