ベテラントレーナーを印象的に演じたルッテン
ルッテンはリングで負ったけがの後遺症に苦しむベテラントレーナーを、激しさと優しさを交えて印象的に演じた。一方、その心の温かさや義理堅さがストーリーの要となるコールマン役のベイダーからは、紋切り型の人のよさしか伝わらない。
サフディ兄弟には、キャラクターの不安を観客に伝染させることを映画の使命と考えている節がある。『グッド・タイム』でも『アンカット・ダイヤモンド』でも、エンドロールが流れる頃には筆者は気分が悪くなり、早く映画館を出たくてうずうずしていた。映画が何を伝えたいのかピンとこないまま、ただ主人公の不穏な内面に引きずり込まれていたのだ。
今回も人間の心理を探求しているが、趣は異なる。ベニー・サフディは観客をケアーの混乱した内面に閉じ込めるのではなく、むしろケアーの内面からも、演じるジョンソンの内面からも意図的に遠ざけているように見える。
ジョンソンにとってケアー役は、アカデミー賞ノミネートも噂される大役だった。確かにアカデミー賞は特殊メークによる大変身に甘いし、2度のオスカー受賞歴を誇るカズ・ヒロ(『スキャンダル』)のメークは素晴らしい。
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