映画が製作された1973年のアメリカは、ベトナム戦争とウォーターゲートによって、国家権力そのものが「信用」を失いつつあった時代だ。権力は嘘をつき、市民は騙され、裏切られる。そんな時代に公開されたこの映画は、巨大な欺瞞を逆手に取る物語を提供した。登場する多くの詐欺師たちは市民であり、騙されるボスは強大な権力なのだ。
まあ映画は映画。あまり深読みはしないほうがいいかな。詐欺が虚構の構築ならば、映画もまた虚構の産物だ。違いは合意があるかないか。
観客はチケットと引き換えに財布を開いてお金と時間を提供し、そして映画に騙される。その帰結に至福があるならば、映画とは最も洗練されたコンゲームなのかもしれない。
『スティング』(1973年)
監督/ジョージ・ロイ・ヒル
出演/ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード
<本誌2026年5月19日号掲載>
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