アメリカで5本の指に入る人気マッチングアプリ「ヒンジ(Hinge)」。近年は外国でのマーケティングにも力を入れているが、2025年に英ロンドンでフォーカスグループ(少人数のグループインタビュー)を実施した際、様子を見ていたジャッキー・ジャントスCEOは息をのんだ。
チャットGPTとの「会話」を楽しんでいるという若者たちに理由を聞いたところ、何人かが「友達の負担になりたくないから」と答えたのだ。たわいない自分の話を聞かされる相手への思いやりにも聞こえるが、ジャントスに言わせれば、その解釈は大間違いだ。
彼らは「誰かに助けを求めるという『プレゼント』の相手を、テクノロジーに置き換えている」と、ジャントスは語る。友達に助けを求めれば相手に負担をかけることになると感じているが、「その負担は実はプレゼントなのだ」と、彼女は言う。「インティマシー(親密な関係)とは、そうやって育っていくものだ」
現代社会は孤独危機にあるといわれる。その原因として、ソーシャルメディアやコロナ禍が挙げられることもあれば、結婚するカップルの減少や、Z世代(現在17〜31歳前後の世代)の対面交流を避けたがる傾向が孤独危機の「症状」だと指摘されることもある。
その点、現代人の恋愛に関する大量のデータを収集・処理するマッチングアプリ運営会社のトップとして、ジャントスは極めて正確かつ鋭い見解を持っている。
問題は、人が集まる場が激減していることだけではない。日常生活で小さな衝突やトラブルに直面した人が、誰かに不満を聞いてもらったり、慰めてもらったりしたいと思ったとき、生成AI(人工知能)がその受け皿になっていることだ。そしてその事実が、恋愛感情を育む心のメカニズムを壊している。
米医務総監によると、Z世代は1つ上のミレニアル世代(現在32〜46歳前後の世代)よりも、誰かと物理的に一緒に過ごす時間が年間1000時間(約6週間に相当)少ない。1日に換算すると、2時間以上少ない計算だ。そして退屈したり、一人きりになったり、居心地が悪くなったりすると、無意識にスマートフォンに手を伸ばす。
「どんなにスマホを眺めても、気持ちが落ち着くことはない」と、ジャントスは語る。そして安堵感がもたらされることがないまま、人を避けることだけが習慣化する。
コロナ禍はその全てを悪化させた。とりわけZ世代にとっては最悪のタイミングだった。10代後半から20代前半といえば、異性に夢中になったり、言い寄ったり、恥ずかしい思いをしたりして、その後の人生で重要になる恋愛の基礎を学ぶ時期だ。
その時期を逃すと、同じような学習の機会は二度と訪れないと、ジャントスは言う。Z世代は「少し自信がなくて、自分をさらけ出すことへの恐怖が少しばかり大きい世代」だと、彼女は分析する。
「テクノロジーは現代人の孤独感の助けになるか」ジャッキー・ジャントスCEOにカニングハム本誌米国版編集長が聞く