AIは人間よりも共感上手
人間とAIの相互作用を研究するノースウェスタン大学のエリザベス・ガーバー教授は、まさにその点を発見した。「会話」の相手がAIだと気付いていない人は、人間が相手の場合よりも、その会話が共感的だったと評価することが多かった。
AIは人間には不可能なほどの一貫性を持って、親密さを感じさせるそぶりをする。「親密さは、個人的な話を打ち明け合うことによって構築される」と、ガーバーは指摘する。AIはその会話のリズムを完璧に模倣することを学んだ。
ただし、それによって構築される友情はあくまで一方的なものだ。AIの友達はユーザーと会話をするようにプログラムされているのであって、ほかにも選択肢がある人に会話の相手として選ばれるのと同じ重みや感激を与えてくれることはない。
しかも、ガーバーも指摘するように、AIとカフェでコーヒーを飲んだり、ハグをしたりすることは不可能だ。AIと長年にわたり共通の思い出を築いていくこともできない。
ところが、ジャントスがロンドンで実施したフォーカスグループによれば、若い世代は注意深くAIを使うというより、面倒な思いをせずに会話を楽しむ手段としてAIを利用している。もしそのような会話を生身の人間としていれば、友情が育まれたかもしれない。
AIは、上手な会話のお手本を示し、社交下手の人たちに安全な練習の場を用意できる。AIとの会話で身に付けたスキルを人間との会話に応用できる可能性もある。
ただし、そうした応用が実際に行われているというデータは今のところない。「補助輪付きの自転車のほうが快適だと感じれば、人は補助輪を外さなくなるかもしれない」と、ガーバーは落とし穴を指摘する。
ジャントスが以前在籍していた音楽配信大手のスポティファイやコカ・コーラなどでは、ブランドが約束している内容と実際の商品やサービスの間にギャップが存在した。
ヒンジの場合、サービスの根幹を成す約束が業界で異彩を放っている。同社のアプリは、最終的に役割を終えてスマホから削除されるべきものと位置付けられているのだ。
それを単なるマーケティング上のスローガンで終わらせないためには、会社の仕組みがそうした約束と連動していなくてはならない。その点、ヒンジの従業員の報酬は、ユーザーのアプリ利用時間を最大化することではなく、ユーザーが恋人をつくりアプリの利用を終了することと連動している。
現在、主要なマッチングアプリの中で月間アクティブユーザー数と売上高の両方が成長しているのはヒンジだけだ。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のヤナ・ガラス准教授(戦略論・行動意思決定論)によれば、ヒンジのアプローチは、衣料品大手のパタゴニアが展開した「このジャケットを買わないで」キャンペーンに通じるものがあるという。
パタゴニアは11年、1年で最大の特売日であるブラックフライデーにニューヨーク・タイムズ紙に全面広告を掲載し、ジャケットの生産過程で生じる環境面のコストを説明して、自社の売れ筋のジャケットを買わないでほしいと消費者に呼びかけた。すると、この広告の掲載後、同社の売り上げは30%上昇した。
利益追求に反するように見えるミッションを掲げることは、旧来型のミッションよりも利益につながりやすいのかもしれない。この種のミッションは顧客選別の手段として機能する。ブランドの理念に近い価値観を持つ顧客を引き寄せ、そうでない顧客を遠ざける効果があるのだ。
ただし、企業の言行不一致には注意が必要だ。「マーケティングのスローガンだけでなく、社内の従業員の評価基準も見なくてはならない」と、ガラスは言う。「重んじられているのはユーザーのアプリ利用の頻度や積極性の指標なのか、ユーザーにとっての長期的な成果なのか」
この点に関して、ジャントスは業界の常識に反する仕組みをいくつか採用している。例えば、新規ユーザーの初期設定や利用案内に他社より多くの時間を費やしている。その結果、20%余りのユーザーが途中で脱落しているという。
また、ヒンジのAIサービスは、ユーザーの代わりに魅力的なプロフィールを作成するのではなく、ユーザーがプロフィールに具体的な情報を盛り込むよう働きかける。読書が趣味だと漠然と述べているユーザーに、最近読んだ本の題名を記すよう促す、といった具合だ。
不便さや遅さ、不完全さをあえてアプリに組み込んでいるのだ。「ユーザーをペースダウンさせることが、私たちの世界とわが社のアプリの成功だ」と、ジャントスは言う。
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