シドティはイタリア人でありながら、ヨーロッパではほとんど知られていない人物である。一方、日本では新井白石との出会いを通じて歴史に登場する。
つまりこの物語は、日本だけの歴史でも、ヨーロッパだけの歴史でもない。遠く離れた二つの世界が、江戸という都市で出会い、互いに相手の世界を理解しようとした出来事なのである。
『西洋紀聞』をイタリア語に翻訳することは、日本の知識人が西洋をどのように理解しようとしていたのかをヨーロッパの読者に紹介する試みである。同時にそれは、江戸時代の日本が決して完全に閉ざされた社会ではなく、限られた形ではあっても世界との知的接触を持っていたことを示す作業でもある。
300年以上前、江戸のキリシタン屋敷で、日本の儒学者とイタリアの宣教師が世界について語り合っていた。その静かな対話は、今日の私たちにとっても、異なる文化を理解しようとすることの意味を改めて考えさせてくれる。
歴史とは、閉ざされた境界の物語ではなく、思いがけない出会いから生まれるものなのかもしれない。
カパッソ・カロリーナ(Carolina Capasso)
イタリア・ナポリ出身。歴史学者。京都府立大学大学院文学研究科日本史専攻博士課程修了、博士(歴史学)。研究分野は16・17世紀の日欧比較文化史、キリシタン文化史、宗教と外交の関係史。これまでにシドティ事件や『西洋紀聞』に関する研究を多数発表し、2025年には新井白石の『西洋紀聞』を初めてイタリア語に翻訳した著書を刊行した。また、講演や文化機関との協力を通じて、日本とヨーロッパの歴史的交流を広く社会に紹介する活動にも取り組んでいる。大阪・関西万博関連事業や国際シンポジウムなどで講演を行い、近世における東西交流の歴史的意義を発信している。
*2024年度サントリー文化財団「海外出版助成」の助成図書です。
『Seiyō kibun. Cronache dall'Occidente』
Arai Hakuseki[著]
Carolina Capasso[訳]
Adiuvare S.r.l.[刊]
(※画像をクリックするとネット書店に飛びます)
