Kentaro Sugiyama

[東京 23日 ロイター] - 中東情勢の影響が長期化することを視野に日本企業が動き出していることが、最新の経済指標から浮かび上がってきた。日本政府は「量は足りている」と冷静な行動を呼びかけているが、製造業では生産の前倒しや納期の長期化を示すデータがみられ、政府と企業の現場との間に温度差が生じている。

「企業の心配は理解できるが、今のところ政府のスタンスは変わっていない」。官邸関係者の一人はこう語る。経済界からは紛争の長期化を見据えて需要抑制策を検討すべきだとの意見も出るが、政府はサプライチェーン(供給網)の目詰まり解消に軸足を置いている。「量は足りている。情報を精査し、流れが滞っている部分を是正している」と同関係者は強調する。

中東からのエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡で緊張が続き、原油輸入の不確実性が高まっていることについても、「石油備蓄の活用や代替調達を進めており、必要量の確保は維持されている」と説明する。

実際、「量はあるが、流れが滞る」という政府の認識を裏付けるような事例も出ている。住宅設備大手のTOTOは、ナフサ(粗製ガソリン)由来の溶剤の調達が不安定になっているとし、ユニットバスの新規受注をいったん停止したが、調整を進めて段階的に再開した。

木原稔官房長官は14日、ナフサについて「一部で供給の偏りや流通の目詰まりが生じているのは、サプライチェーン内の取引企業同士の認識の齟齬(そご)が要因の一つだ」と述べ、「関係事業者に対して安定供給に関する要請を実施した」と説明していた。

<調達不安>

一方、企業サイドの見方はより慎重だ。日銀短観との連動性が高いロイター短観では、4月の製造業景況感が大きく低下した。中でも「化学製品」や「繊維・紙・パルプ」といった素材型業種の落ち込みが目立ち、先行きも弱含みの見通しとなった。「ホルムズ海峡封鎖による石油由来原材料の調達不安から、年内の生産・販売計画の見直しを進めている」(紙・パルプ)との声が上がるなど、調達の不確実性が計画に影を落とし始めている。

最終需要に近い分野でも温度感は似ている。「受注環境は好転しているが、石油系溶剤の調達に苦戦しており、中東の混乱が長引くことを心配している」(精密機器)などの声が聞かれた。足元の需要と、供給安定への不信感が同時に存在し、企業は在庫や調達余力といった「余裕」を正常時より厚めに確保しようとしている可能性がある。

こうした動きは、4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)にも表れた。指数は54.9と水準は改善したが、先行きリスクを意識した生産の拡大や、供給制約を反映した納期の長期化が押し上げに寄与したとの指摘がある。

PMIをまとめているS&Pグローバルの担当者は「中東戦争を取り巻く懸念や先行き不透明感、サプライチェーンがさらに混乱する可能性から、一部の製造業が生産量を引き上げた」とコメント。供給網の混乱はコストの大幅な上昇を招いただけではなく、購買品の平均納期が大きく長期化する要因にもなった、との見方を示す。

製造業の購買担当者が警戒しているのは、局所的な供給途絶や調達遅延で生産を止めざるを得なくなるリスクだ。先行きの生産見通しも悪化しており、S&Pグローバルの担当者は「現在の製造業の堅調な業績は先行き不透明感が和らぎ、サプライチェーンが安定を取り戻さない限り長続きしない」と話す。

SMBC日興証券のジュニアアナリスト、宮田皓生氏は「報道ベースでは一部に生産調整の動きも出ており、PMIでみられる生産の上昇が必ずしも実態を反映していない可能性はある」と指摘する。「供給制約の影響は全体に波及しきっておらず、上流のどこかで滞っている段階だ」と述べる一方、「需要そのものは全般的にみれば依然として旺盛だ」との認識を示した。

(杉山健太郎 編集:橋本浩)

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。