Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 20日 ロイター] - 高市早苗政権があす、発足から半年を迎える。「責任ある積極財政」を金看板に、報道各社の世論調査では依然として高い水準の内閣支持率を維持。先の衆院選で歴史的大勝を遂げた「功績」は、与党内で高市氏の求心力を大いに高めている。一方、強いリーダーシップは時に周囲の進言を遠ざけ、対応が後手に回ると苦言を呈する声も。イラン情勢や日中関係への対応など、懸念すべきポイントを指摘する専門家もいる。
<「高市氏はとても喜んでいた」>
「野党にも、自民党内にも『敵』となる存在がない。目立った閣僚のスキャンダルもない」。首相官邸に出入りする日本政府関係者は、高市氏に集まる支持の背景をこう分析した。昨年10月21日の第1次内閣発足直後、読売新聞の世論調査で内閣支持率は71%と、参考となる1978年以降で5番目に高かった。翌11月の調査では72%に上昇。その後も高水準を保ち、今月17─19日の調査でも66%を維持している。通常国会での予算審議など野党からの厳しい指摘を受けたにもかかわらず、だ。
複数の政府関係者は、高市氏が「古い」自民党や霞が関と一線を画し、国民の間に漂っていた政治不信を打破するようなイメージづくりに成功している、と話す。前出の関係者は自ら断行した2月の衆院選で316議席を獲得したことにも触れ、「やはり初の女性首相という点も大きい。これ以上ない刷新感が他の政治家との比較で国民人気を集め続けている」と指摘。別の関係者は「夜の会食が少ないなど、しがらみにとらわれないクリーンな印象がある」とも語った。
「責任ある積極財政」への期待は株価を押し上げ、厚生労働省が3月に公表した1月の毎月勤労統計では、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金が前年比1.4%増と、13カ月ぶりにプラスにも転じた。経済官庁幹部は「高市氏は実質賃金プラスをとても喜んでいた」と当時の様子を振り返った。
<「懸念はイラン情勢と日中関係」>
専門家は高市氏への期待と不安を口にする。農林中金総合研究所の理事研究員・南武志氏は、「積極財政や成長戦略など高市氏の非常に強いメッセージが景況感の向上に役立っているのは間違いない」と評価する。政権発足前に4万円台だった日経平均株価が5万円台後半で推移していることを挙げ、「財政出動、成長戦略をマーケットが期待しているのも事実だ」と語った。
また、「現時点で株高は期待先行とも言える。企業業績が堅調なのも高支持率の理由の一つだが、これは前の石破茂政権やその前の岸田文雄政権の遺産とも言える」とも指摘。「高市政権は具体的な経済政策がまだ固まっているとは言い切れず、経済政策の成否についてはまだ判断できない」とも述べた。
一方、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、金融資本市場における不安要素に言及する。「高市政権発足後の金融市場は円安、債券安(金利上昇)、株高の高市トレードが進んだ」とする反面、「株高は日本経済への見方を反映してというよりも、積極財政への不信感で円安が進んだ結果、円安に引っ張られて株高が進んだ格好だ」と解説。「金融市場には政権に対する不安感がある」と言い切る。
もっとも、高市氏はマーケット指標に配慮して政策を進めている部分があるとし、「市場の力で政策を押し戻している面がある。日銀に対しても、政権発足当初は『経済政策は政府が決める』とあからさまに利上げをけん制していたが、圧力を加えると円安が進んでしまうので現在は控えるようになった」と見る。
今後はイラン情勢と日中関係悪化の影響がカギと言い、「実質賃金が1、2月と連続でプラスに転換したが、コメ価格の頭打ち、ガソリン暫定税率廃止による価格低下の影響が大きい」と分析。「イラン情勢による原油価格高騰が物価を1%押し上げる見通しで、実質賃金は再びマイナスに落ち込むだろう」とした。
中国人訪日客が2月に前年比約45%減、3月に同約56%減となっている点を「想像以上の減少だ」とした上で、「日中関係の悪化が日本経済のけん引役であるインバウンドにも影響を与えている」とも懸念した。
<「倒閣運動と見なされる」>
一方、政府内でささやかれるのは高市氏の「独断専行」への苦言だ。経済政策を担う政府関係者は「いまの政権内には、周辺の政治家や官僚から話を聞いてまとめるコーディネーター役がいない」と指摘。例えば財務省が予算払底の見通しを進言したり、経済産業省がエネルギー不足のシナリオを提示したりすると「倒閣運動と見なされる」と語る。
また、高市氏が今年度当初予算の年度内成立を「本当に」諦めたのも3月30日になってからだったと明かした。その上で、「途中段階で我々が何を言っても、何の生産性もない。ギリギリになるまで自身の方針にこだわるのが政権のスタイルだ」とロイターの取材に語った。
木原稔官房長官は20日午前の記者会見で、この半年間、強い経済や外交を構築するため「果敢に働いてきた」と説明。「引き続き気を引き締めて各般の対応に当たり、高市内閣の基本方針で示した政策を一つひとつ着実に実行していく」と述べた。
イラン情勢悪化の長期化や溝が深まる日中関係など、政権を取り巻く課題は山積している。前出の関係者は物価高対策など政策決定のスピード感が求められる場面を想定し、「国民への節約要請も補正予算の編成指示も高市氏はまだしていない」とし、「予算の枯渇が目の前に見えてきて初めて『最後の判断』が下る。それを待つしかない」と述べた。「仮にそれで判断が遅くなったとしても仕方がないことだ。高市氏を選んだのは国民であり、それが民主主義というものだから」
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)