Kentaro Sugiyama

[東京 6日 ロイター] - 野球の国際大会、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表「侍ジャパン」が6日、初戦を迎える。3年前に続き優勝すれば日本に約932億円の経済効果をもたらすとの試算があるが、今大会は同時に、海外プラットフォームへの支払いが膨らむ日本の「デジタル赤字」の現実も浮き彫りにしている。

政府はコ⁠ンテンツ産業の海外展開を成長戦略の柱に据えて構造転換を図るが、実現には政権の任期を超えた息の長い取り組みが求められる。

<積み上がる「固定費」>

「侍ジャパン」には、米大リーグの大谷翔平や山本由伸など世界トップクラスの選手が多数参加し、連覇への期待がかかっている。ただ、今回のWBCは米動画配信大手ネットフリックスの独占配信で、地上波テレビでの生中継は基本的にない。大会の熱狂が海外プラットフォームへの支払いにつながる構図は、日本のデ⁠ジタル収支の現状を表している。

日銀の国際収支統計では、主に「コンピューターサービス」、「著作権等使用料」、「専門・経営コンサルティングサービス」などがデジタル関連に分類される。2024年は海外事業者への支払いが国内の受け⁠取りを大きく上回り、約6.7兆円の赤字となった。

海外プラットフォーマーが提供するクラウドや動画配信などのサブスクリプションサービスは、企業活動や国民の娯楽にとって不可欠なインフラとなりつつある。景気動向にかかわらず利用が続くため、支払いは事実上の「固定費」として積み上がりやすい。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、海外への支払いを抑制するのは「難しい印象だ」と話す。こうした構造が続けば、国内需要から生まれる収益の多くが国外企業に帰属し、成長の果実が国内に残りにくくなる。

<日本発コンテンツで稼ぐ>

この状況を短期間で覆すのが現実⁠的でないことを考えれば、日本の事業者による受け取りを増やすことが、デジタル赤字解消の有効な処方箋となり得る。

政府は、石破茂政権時代に日本発コンテンツの海外売上高を33年までに20兆円へ拡大する目標を掲げた。23年の5.8兆円から約3.4倍の⁠大幅増だ。⁠高市早苗政権もコンテンツを17の戦略分野の一つに位置付け、予算を大幅に拡充する。

現在「コンピューターサービス」や「著作権等使用料」の収支は赤字だが、受け取り自体は増加している。24年はオンラインゲームなどで1.5兆円、アニメ・マンガなどで1兆円、計2.5兆円の受け取りに貢献した。25年はこれらが計3.2兆円に拡大した。

ゲームは任天堂やソニーグループが国際競争力を持つ。キャラクターの累積収入ランキングでも、ポケモン(1位)、ハローキティ(2位)、アンパンマン(6位)、マリオ(8位)、少年ジャンプ/ジャンプコミックス(9位)などが世界上位を占める。

みずほ銀の唐鎌氏は「出て行っているものを抑制するより、もらっているものを増やす方が想像しやすい」と指摘。⁠支払いを抑制する「守り」から、受け取りを増やす「攻め」への戦略転換が得策とみる。

<国際流通網は「スイミー戦略」>

経済産業省は、海外売上高20兆円の目標達成に向け、知的財産(IP)や人材、デジタル分野への国内投資を拡充するとともに、国際流通網の整備や海外ファン向け施策を強化する。

国際流通網では、日本側が一定の影響力をもつプラットフォームの活用を重視する。日本アニメの配信ではソニーグループの「クランチロール」(海外会員数2000万人)、マンガでは集英社の「MANGA Plus」(同600万人)など複数ある。このほか、ゲーム実況や音楽プラットフォーム、ファンサイト、グッズ販売サイトなどを含め、経産省は海外に延べ1億人規模のファンベースがあると推計。これらを一つの「群れ」として捉え、複数の入り口から日本発コンテンツの「沼」に引き込む。

一匹ずつでは巨大な魚に飲み込まれる「小魚」でも、「群れ」としてまとまれば大きな存在感を放⁠つ。いわば「スイミー戦略」(梶直弘・文化創造産業課長)だ。日本発コンテンツを世界に行き渡らせる点で、巨大プラットフォーマーと必ずしも敵対するわけではないが、成功報酬を確実に日本へ還流させる仕組み作りは急務となる。

官民一体となって推進するこの試みは、単なるプロモーションの域を超え、日本の「デジタル赤字」解消に向けた防衛策とも言える。もちろん、海外でも通用するヒット作を生み続けるための人材育成や環境整備、海賊版対策など網羅的な施策も必要だ。

経産省はコンテンツ産業が2040年には貿易・サービス収支の黒字の半分を稼ぎ出す産業に育てる絵図を描く。日本が「いいものを作る国」から「仕組みで稼ぐ国」へと脱皮できるか。長期的な取り組みが始まる。

(杉山健太郎 編集:橋本浩)

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