ちりばめられた記憶

それはアグネスを演じるバックリーという俳優のおかげだ。36歳のバックリーは、今やこの世代を代表する映画女優の1人と目されている。本作での力強い演技を見れば、それも当然だ。

映画「ハムネット」
バックリーはこの作品でアカデミー賞を受賞 REX/AFLO

アグネスは、森の魔女の娘だと噂を立てられている。確かに彼女には、野生の生き物みたいなところがある。第1子が生まれそうになった時、彼女は家を飛び出して森の中へと入っていく。落ち葉のカーペットの上で、独りで子供を産むために。

アグネスは薬草の扱いにたけていた。つまり16世紀の世界において彼女は、医者に負けないくらい体の不調を治すことができたわけだ。それでも疫病が一人息子の命を奪うのを止めることはできなかった。彼女は大自然に生をささげてきたのに、大自然は彼女を裏切ったのだ。

バックリーはアグネスの困惑を、真正面から、思い込みなしに演じている。おかげで私たちも、聖書の次に人類が細かく読み込んできた戯曲を、新鮮な目線で見ることができる。そしてアグネスたち家族の日々を、ウィルがどのように戯曲に織り込んだかを目にすることとなる。

アグネスがさまざまな植物の使い方を子供たちに教えた時の様子は、狂気に陥ったオフィーリアのせりふに反映されている。以前に彼女が口にした「誰も知らない国」という言葉も、シェークスピアが最も必要と考えたところでせりふに取り入れられている。