ネタばれするべきかやめておくべきか、それが問題だ(この記事は映画の結末に触れているので、ご注意を)。

北アイルランド出身の作家マギー・オファーレルの小説『ハムネット』には、ある名前の不在が目立つ。

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その名前とは「ウィリアム・シェークスピア」。

オファーレルは序文で、これが16世紀後半の英ストラットフォード・アポン・エイボンに生きた夫婦の物語であることを説明する。夫婦には子供が3人いたが、一人息子が1596年に11歳で死亡。「4年ほどがたち、父親は『ハムレット』という芝居を書いた」と、オファーレルはつづる。

序文を読んだだけでもすぐにピンとくるが、オファーレルは一度もウィリアム・シェークスピアの名前を出さない。英語の歴史において最も名高い文豪は最後まで名前を明かされず、「父親」「夫」「手袋商人の息子」と表現される。

一方、クロエ・ジャオ監督の映画版はそこまで徹底していない。最初こそポール・メスカル演じる「ウィル」を、曖昧に「家庭教師」と紹介する。だが子供たちが『マクベス』のせりふを口にする場面を見れば、その正体は明白だ。

また小説は最後の数ページまで戯曲『ハムレット』に触れないが、映画は終盤、上映時間のほぼ4分の1を割いて、ウィルが書き上げた『ハムレット』の上演と、この芝居に対する妻アグネス(ジェシー・バックリー)の反応を描く。