一瞬一瞬を大切に過ごして
滞在中、レーシャの夫は毎日、仕事をやりくりして2人きりで過ごす時間をつくってくれた。2人は市内の緑が多い場所を散歩した。
この町で恋人や夫婦が2人きりの時間を過ごすとなると、公園を散歩してコーヒーを飲む以外の選択肢はほとんどない。マリーナはスイーツで有名な小さなカフェに夫と歩いて出かけた。
「店先には大きなピンク色の看板が出ていて、店の中もピンクずくめ。椅子も壁もインテリアもとてもかわいくて、バービーっぽい感じだった」とマリーナは言う。「店に入ったら、最初は私たち以外にお客はいなくて、夫はそういう甘い雰囲気の店内で少し恥ずかしそうだった。ひげを生やして軍服を着た大柄な兵士だから。でも数分のうちに、カフェは夫と同じような、背が高くて軍服姿の疲れた顔をした屈強な兵士たちでいっぱいになった。みんなピンク色の小さな椅子に座り、ラテやデザートを注文していた」
また、マルゴもこう話す。「気付けば、友人知人は軍関係者だらけになった。それとともに、クラマトルスクは私にとって居心地のいい場所になっていった。店などどこに行っても、必ず知り合いと顔を合わせる。キーウにいる時みたいに。ただしここでは、何を見るにつけても、戦争がすぐそばにあることを思い出す」
昨年秋にクラマトルスクを訪ねた時、イリーナは夫と公園を歩きながら集まった人たちと皆既月食を見た。月は地球の影にのみ込まれ、血を思わせる赤い色に染められた。この町での滞在と同じで、なかなか体験できることではない。
イリーナは言う。「みんな一瞬一瞬を楽しんで生きている。これが自分にとって最後の瞬間になるかもしれないとの思いが常に頭のどこかにあるから」
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