とはいえ、アメリカでの生活はまるでコメディー映画。去年の暮れは、自分で立ち上げ経営しているPNDレコーズ(ジャズの音楽レーベル)の銀行口座残高が初めてゼロになった。自分の個人口座から5000ドルを融資し、今度はPNDから自分に給料を払うという、零細企業の経営者の綱渡り状態を経験した。

同時に、今までこれを経験せずにやって来られたこと自体が「奇跡」だったのだと初めて気付いた。ポップスの時代に比べて、人が言う「失ったもの」はあるのかもしれないが、そぎ落とされて逆に工夫することを覚え、手に入れた新しいものがたくさんある。

おいしいランチを食べる時の幸せは、変わらない。栄養価の高いもの、新鮮なものを廉価で買い、音楽をつくるような気分で毎日新しいメニューを考える。そりゃ失敗作も多々あるけれど、一日の中でやるべきことがたくさんで、それはそれで楽しい。

取れたボタンを針と糸で付けたり、毎日その様子を日記のような文章に書き留めたり。失うことによって素敵が「息づく」というか、本当の意味での「信頼できる確かなもの」が小さいながらちょっとずつ増えている。

「3代目」大江千里の音楽人生
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