あまりにシリアスすぎる展開だが、パナヒが持つユーモアとペーソスは健在だ。前作の『熊は、いない』で権力や暴力を表象した熊は、今回も作品全体を貫く通奏低音となっている。人は権力を持つと変わる。パナヒのメッセージも痛烈だ。
規制や圧力は時として映画の大きな滋養となる。拮抗しようとする力が内圧を上げるからだ。でもだからといって、イランの現体制の肯定などできるはずもない。
......やっぱりもやもやする。明確な規制や圧力がないのに自覚しない自主規制で窒息しかけている国で映画を撮ることを仕事にしながら、僕はそのもやもやを抱え続ける。
『シンプル・アクシデント/偶然』(日本公開は5月8日)
監督/ジャファル・パナヒ
出演/ワヒド・モバシェリ、マルヤム・アフシャリ
<本誌2026年3月31日号掲載>
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