2012年6月、エジプトでムスリム同胞団出身のムルシ大統領が選挙で選ばれ、中東全域で同胞団の台頭が顕著になってくると、UAE政府は同年3月から12月にかけて請願書の参加者を含む94人を国内にある同胞団系の市民組織「イスラーハ(改革)」のメンバーとして逮捕した。
翌年始まった裁判では、「国外と連絡をとり、国家転覆を謀った」として、56人に3年から10年の禁固刑、8人に被告不在のまま禁固15年を言い渡した。
この判決について、国際的人権組織「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」は「明らかに強制された自白以外は、判決からは平和的な政治改革を通して社会的な公正を求める政治運動としか読み取れない。判決は市民に対して自由な考えに基づく政治的な議論や政府への批判は反逆行為であるとするもので、刑務所に行きたくなければ沈黙するしかないことになる」と、政治弾圧として批判している。
2013年、エジプトでクーデターによりムルシ大統領を排除した軍を、UAEはサウジアラビアとともに支援した。
さらに国連が認めるリビア国民政府に対して、UAEはエジプトとともに、西部で影響力を持つ元リビア軍将軍ハフタル司令官が率いる軍事組織を支援し、国民政府の拠点を空爆したという報告もある。国民政府にリビアのムスリム同胞団組織が参加しているためと見られている。
イスラエルからスパイウエアを購入したUAEの狙い
ここで本題のイスラエルとの和平に戻ると、UAEは民主化抑圧の手段として、イスラエルの企業から携帯電話に侵入して情報を盗むスパイウエアの技術を購入して、政府に批判的な人物を監視していたとされる。
米紙ニューヨーク・タイムズが2019年3月に掲載した調査報道によると、UAEが導入したスパイウエアの中には、イスラエルの情報関連企業NSO社が開発した「ペガサス」というソフトがある。UAEは2013年にNSO社と契約し、国内の治安維持のためにペガサスを導入し、市民の監視を始めたという。
UAEのスパイウエアを使った言論弾圧で、国際的に強い批判を浴びているのは、2017年に行われた、国際的に著名な人権活動家のアフマド・マンスール氏の逮捕である。
マンスール氏は2011年の請願書に参加し、8か月間拘束されたが、2017年には「UAEと、国の指導者を含む国の象徴の地位と名誉を侮辱した」という罪で、禁固10年の判決を受け、現在も服役している。
UAEはペガサスをマンスール氏の携帯電話に仕込んで情報を盗み、監視していたことが、マンスール氏が連絡をとっていたカナダの人権組織の調べで指摘され、ニューヨーク・タイムズなどが調査報道で取り上げた。ペガサスがマンスール氏に対して使われた後も、NSO社はUAEにスパイウエアを売り続けたことを示す領収書などの証拠があるという。
【関連記事】シリア「虐殺された町」の市民ジャーナリストたち