日本に巣食う「嫌韓」の正体

2019年10月10日(木)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

文政権は元徴用工問題を盾に日本の植民地支配を論点に持ち出し、日本側は1965年の日韓請求権協定でもって解決済みだと言って突っぱねる。

憤りと幻想よりも現実を見よ

文政権のような左派政権と保守派の安倍政権では当然ながら、議論の相性は悪い。分かりやすく伝えたいメディアは双方の「相手に負けたくない」という思いを背景に、二項対立的な構図をつくり、日本側、韓国側に分かれて批判合戦をリードする。

ナショナリズムとネットに蔓延する「憤り」との相性はいい。日韓政府同士の対立に加え、国内ではさらに右派、左派に分かれて対立が過熱する。発言の軽さはリベラル側も同様である。

日本のリベラル派は安倍政権への批判を強めている。韓国のメディアや政治家は、当然のようにそんな日本側の発言をウオッチし、日本のリベラル派に期待を抱いているという。

「安倍政権が終わり、日本でもリベラル派が政権を取れば元徴用工問題などが前に進むのでないかと思わせている。だが、安倍政権が終わっても自民党政権が終わるわけではない。淡い期待が問題を延命させている」(元特派員)

国内の政治的な対立がそのまま国際政治にスライドする。それは日本も韓国も変わらない。日本ではメディアが文政権を批判すると右派が喜び、安倍政権を批判すればリベラル派が喜ぶが、結局は両方とも自分たちが望むような情報でしか日韓関係を見ない。だから現実的なシナリオを描けないまま、国内でも対立だけが続いていく。

前述の現役ソウル特派員はこう嘆く。「韓国の歴史で悲劇的なのは、近代化の歴史が日本支配の歴史と結び付くこと。日本で明治維新がベストセラー小説やドラマになるとき、そこで常に外国人による支配が描かれていると思えばいい。宗主国だった日本にとって植民地支配は過去の歴史だが、韓国では現在形の問題になる」

これまで指摘されたように、世代交代が進めば、あるいは文・安倍両政権が終われば日韓がうまくいくというのは幻想でしかない。土壌が変化しない限り、問題は常に繰り返される。

問題は過去の歴史を理解し、「経済成長した韓国」とどのような関係を築くかだ。韓国関連報道に必要なのは憤りと幻想に左右されず、現実を見据えた言葉を紡ぐことにある。

<本誌2019年10月15日号掲載>

【参考記事】保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)


※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡

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