プロスポーツ界も注目! 脳に電気刺激を与え能力を高めるヘッドホン型デバイス

2019年3月12日(火)17時05分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラムニスト)

<既に商品化されている「ヘイロー・スポーツ」は、頭蓋を通して電気パルスを伝え、運動能力を改善するヘッドホン型デバイス。神経科学分野で「tES」技術の研究が進む中、こんな「鍛え方」が当たり前になる時代が近付いている>

※3月19日号(3月12日発売)は「ニューロフィードバック革命:脳を変える」特集。電気刺激を加えることで鬱(うつ)やADHDを治し、運動・学習能力を高める――。そんな「脳の訓練法」が実は存在する。暴力衝動の抑制や摂食障害の治療などにつながりそうな、最新のニューロ研究も紹介。

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ここはホテルのロビー。私の目の前に置かれたガジェットは見た目はただのヘッドホンだが、内側にいくつもスパイクが付いている。頭皮マッサージ用? いやいや、そうじゃない。

スパイクの先端から頭蓋を通して脳に電気パルスが伝わるのだと、開発に携わったシリコンバレーのベンチャー企業ヘイロー・ニューロサイエンスのダニエル・チャオCEOは説明する。

これを装着すれば50代のオジサン(私のことだ)でも若者のように俊敏に動ける、というのだ。試してみますか──チャオが聞いた。

何とも怪しげな話だが、スキーのアメリカ代表チームやメジャーリーグのいくつかの球団、NFLのドラフト候補にも選ばれた数人のカレッジフットボールの選手らが既に試して、効果を実感しているとか。

驚くべきデータもある。スキージャンプのチームによると、このデバイス「ヘイロー・スポーツ」を装着してトレーニングを行った選手たちは「ジャンプ力」が31%も向上。ヘイローなしで同じトレーニングを行った対照群は18%しか伸びなかったそうだ。

どんな競技でもトップレベルになると選手の実力差はほんのわずか。メダルをつかめるか入賞で終わるか、ちょっとした違いが明暗を分ける。ヘイローを使うことでそのわずかな差を埋められるなら、果たしてこれを使うことはフェアなのか、という疑問も生じる。既に「ニューロ(脳)ドーピング」として待ったをかける動きもある。

ヘイロー・スポーツは1日30分程度の装着で筋力や持久力が効率よくアップし、運動のパフォーマンスが向上する COURTESY HALO

低価格化と小型化で普及狙う

今春発売予定の改良版ヘイロー・スポーツ2の価格は399ドル。電気パルスによるパフォーマンスの改善はまだ研究段階にある技術で、うさんくささも付きまとうが、チャオはヘイローをスマートフォンにおけるアップルのような消費者向けブランドにしたいと考えている。

開発の基礎を成すのは、ここ十数年神経科学の分野で盛んに研究されている経頭蓋電気刺激(tES)と呼ばれる技術だ。電気パルスは厳しいトレーニングと組み合わせることで初めて効果を発揮する。開発チームによると、電気パルスがニューロン(神経細胞)の発火を促すため、競技のテクニックをより効率的に習得できるという。安全性はこれまでのデータで「問題なし」とされているが、使用に当たっては注意も必要だ。

ヘイローを立ち上げる前に、チャオは仲間と共にてんかんの発作を抑える頭蓋内埋め込み型のデバイスを開発し、商品化に成功。ヘイローには著名なベンチャー投資家マーク・アンドリーセンらが資金を提供した。顧問には連邦通信委員会の元委員長リード・ハント、アップルが買収したヘッドホンメーカー、ビーツ・エレクトロニクスの元CEOスーザン・ペイリーが名を連ねている(ヘイローの製品デザインには明らかにビーツのヘッドホンの影響がうかがわれる)。

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